2010年12月31日金曜日

A Happy New Year!

あけましておめでとうございます。

この年になって初めて,海外で新年を迎えました。

せっかくなので,フェデレーション・スクエアのカウントダウンに行って来ました。

とにかく,すげー人だった。身動きとれないくらいの混雑…


2010 年 12 月 31 日 午後 11 時 59 分 59 秒…


で,次の瞬間から 10 分間,メルボルン中心部の数々のビルの屋上から花火が上がりました。



本年もよろしくお願いいたします。

熱波

さて,大晦日です。

今日のメルボルンは最高気温 40 ℃。夕方の 6 時を過ぎても 39 度近いということ。それでいて風が強い。ちょっと外に出てみたら,確かに暑くて風が強い。ちょうど,灯油ファンヒーターの前に座っている感じ。熱風。今日,カウントダウンで花火とか上がるみたいだが,夜でも熱中症でやられる人が出そうだ。

ネイティブの植物も一様にしおれていたよ。


実は,今日は隣のマツモト先生ご一家と牛タンメインの焼肉をしようと思っていたが,この天気のため,外に出るのはやめて屋内で実施。

なぜが僕がベロを捌く係に任命されて奮闘。

このサイズが 2 本で 13 ドル(1,100円)。かなりのお手頃価格。


言っときますが,新生物じゃないですよぉ。

切れない包丁で苦闘しながら,何とかこの状態までこぎつけた。


大変美味しゅういただきました

が,牛タンだけでこれだけ量があるとさすがに少し飽きたか…

2010年12月30日木曜日

Williamstown

今日は,午後から Williamstown という街に行ってきた。アパートからノース・メルボルンまで歩き,そこから電車で 20 分くらい。

ここは,1835 年以来,帆船でやってきた入植者が寄港する港町として栄えたということで,港の近くには当時の面影を残す建物が残っている。今は,カフェやレストランが立ち並び,ちょっとしたビーチリゾートという感じだ。


当時を思わせるところも残っている、これは Time Ball Tower と言って,船に時間を知らせるための塔だったらしい。


決まった時間に塔の上にあるボールが落されて,それに船が時計を合わせるというようなものだそうだ。

港の反対側にはビーチもあって,海水浴客でにぎわっていた。


ちなみに,港からは停泊するヨット越しにメルボルンの市街地が見える。


帰りは,フェリーで市内まで戻ってきた。ヤラ川を上って約 50 分の行程。サウスバンクあたりにかかる様々な橋を眺めながらのクルージングがなかなか楽しかった。

しかし,12 月 30 日だよ。なのに真夏…やっぱりなんか調子狂うな。

2010年12月29日水曜日

Ashes

スクリーミン・ジェイ・ホーキンスの曲にあったな,Ashes…でも,今日の話はそれとは違う。

Ashes というのは,2 年に一度イングランドとオーストラリアの間で行なわれるクリケットのテストマッチのこと。今年はオーストラリア各地で行なわれていて,今週は 4 戦目(4 週目っつうか)がここメルボルンの MCG で行なわれている。

…と書いたが,今日の話はクリケットの話でもない。

実は,このクリケットの Ashes 杯にちなみ,オーストラリアとイングランドのビールのテイスティングマッチをやろうという企画があって,昨夜,メルボルンの中心部にある Portland Hotel を会場に行なわれた。


別に専門的なテイスティングではなく,酒好きが集まってつまみでも食いながら,どっちが好きかやってみようぜ的な感じだったので,こりゃ行かずにおれん,ということで行ってきた。

イベントの開始は 7 時半。それから 30 分ほどテイスティングのイントロダクション(これは別に要らなかったが…)があって,その後,1 フライト 4 種のビール+軽食がセットで運ばれてきて,それが全部で 3 フライト,合計 12 種のビールをテイスティングできるというもの。料理の方も,1 フライト当たり,オーストラリア風とイングランド風が 1 品ずつ供された。オーストラリア風はワニの串焼きとか,イングランドだとコーンウォール風のパイとか,そういう感じ。

さて,肝心のテイスティングの方だが,実際にコンペなどで使用されているジャッジシートも配られた。


ただ,これにマジメに書き込んでたのは僕くらいのもんで,一緒のテーブルの他の連中は,呑みながらだべってるだけだったが…詳細なテイスティングノートを全部載せるのは冗長なので,オーストラリア,イングランド双方 6 種類ずつのテイスティング対決の(個人的)結果だけを下に記す(カッコ内はビアスタイル)。



オーストラリア イングランド
McLaren Vale Ale
(American Pale)
× Ruddles County
(English Strong Ale)
Mountain Goat
Rare Breed IPA
(India Pale Ale)
× Greene King
Abbott Ale
(English Ale)
Bridge Road
Bling IPA
(India Pale Ale)
× Devenport IPA
(India Pale Ale)
3 Ravens USB
(Special Bitter)
× Fullers
Extra Special Bitter
(Special Bitter)
Holgate
Temptress Porter
(Porter)
× Youngs
Double Chocolate Stout
(Chocolate Stout)
Otway Estate
Organic Raspberry Wheat
(Fruit Beer)
× Red Duck Scotch Ale
(Strong Scotch Ale)


一応,勝敗は細かく採点した数値を合計して出している。結果はオーストラリアが 4-2 で勝利。ところが,実はイングランド側の最後の Red Duck はオーストラリアビールだったりする(なんで?)ので,オーストラリアの圧勝とも言える。ただ,全部ボトルでサーブされたのと,英国から輸入されたビールの保存状態が必ずしも望ましくなかったことからオフフレーバーが出ていたものもあったので,条件として英国側に不利であったことは否めない…

でも,ユニークなイベントで,同じテーブルのオージーたちと話しながら楽しいひと時を過ごせた。

ちなみに,イベントの最後には,ここのブルワリー(Portland Hotel では James Squire というブルワリーが醸造も行なっている。)の限定ビール Ashes Ale がサーブされた。


イングリッシュスタイルのエールで,トフィーのような甘みを感じるけれども,それよりもラズベリーを思わせるような香りと酸味,それに強すぎない程度の上品な苦味に特徴を感じた。この季節にも合っているかな?

2010年12月28日火曜日

The King's Speech

昨日の昼間,Cinema Nova で映画を見てきた。トロント映画祭で観客賞を受賞した "The King's Speech"。実話の映画化で,主人公は現在のイギリス女王・エリザベス 2 世の父親に当たる国王ジョージ 6 世(当時ヨーク公)。ひどい吃音に悩まされていた彼と言語聴覚士であるライオネル・ローグとの交流を軸に,国王が吃音を克服して,歴史的な演説をするところまでを描く。出演はヨーク公にコリン・ファース,その妻エリザベス妃にヘレナ・ボナム=カーター,ライオネル・ローグにはオーストラリア出身のジェフリー・ラッシュ。ローグ自身もオーストラリア出身であったため,粋なキャスティング。

役者の好演もさることながら,セリフがウィットに富んでいて,実話の映画化としてはすごくスタイリッシュで楽しい映画に仕上がっている。クライマックスへの導き方も含めて,脚本の勝利といえるだろう。

メルボルンでは先週から封切られたばかりだし,オーストラリアにも縁のある物語であることもあり,かなりの大入り。こちらでは珍しく,上映前に並ばされた。

ところで,僕のとなりに座っていた老婦人と上映前少し話をした。以下,おばあさんが A,僕が B

      A: 学生さん?
      B: いえ,働いてます。
      A: あら,ごめんなさいね。若く見えたから。
      B: そんなに若くないですよ。
            大学で働いてるんで,学生と過ごす時間が多いから…
      A: あぁ,それで若く見えるのねぇ。
            Nova にはよくいらっしゃるの?
      B: そうですね,よく来ます。
      A: お近くにお住まいなのよね。私はトラムを乗り継いで見に来たの。
            実は,この映画の出来事があった時,
            ちょうどイングランドからオーストラリアに移住する頃だったのよ。
      B: へぇ~,そうですか。じゃ,覚えてらっしゃる?
      A: いや,私は 4 歳だったからあまり…
            でも,母からいろいろと聞かされたのよ…

というわけで,歴史の生き証人みたいな人から,上映前にちょっとした歴史のレクチャー(?)を受けたおかげで物語にもスッと入っていけたし,観た後も気持ちの良い感動を味わうことができた。

映画の中のエリザベス2世はローティーンだったと思うから,多分,このおばあさんは 70 代の後半くらいだろう。このくらいの年齢の人はあまり早口でしゃべらないし,彼女の折り目正しい Queen's English が心地よく聞き取りやすかったなぁ。

映画自体も良かったし,なんか得した気分。

2010年12月27日月曜日

Aリーグ

今日,こっちに来て初めて A リーグ(オーストラリアのプロサッカーリーグ)の試合を見に行った。というか,試合よりもスタジアムを見たかったという方が正確。会場が AAMI パークという今年の 5 月にオープンしたばかりの新しいスタジアムで,こけら落しはオーストラリアとニュージーランドのラグビーの試合だった。ご覧の通り,外から見ると一見巨大なシャボン玉みたいなユニークな形をしている。


中はこんな感じ。


さて,今日のカードは地元メルボルン・ビクトリーとニューカッスル・ジェッツの対戦。オーストラリアではサッカーはどっちかというとマイナースポーツで,今やっているクリケットだとか冬場に行なわれる AFL などと比べてメディアの取り扱いも小さめなのが寂しい。かくいう僕自身も AFL の試合はテレビでもスタジアムでも見ていたけれど,A リーグは中継すら真剣に見たことなかった。平均観客動員数が 1 万人を割り込んだなんて記事も読んだけれど,今日は 16,000 人を超える観客が入ったそうだ。夏休みだしね。

さて,サッカーなんてどこの国で観ても似たようなもんだろうと思ったが,日本の J リーグや代表のゲームを見慣れていると,やっぱり違うなぁ,と思うことも多い。ということで,ちょっと気付いたことをまとめてみた。

  1. アウェイの観客席が異様に小さい。日本だと,ゴール裏の片方がホーム,反対側がアウェイみたいな住み分けがあるが,どっちのゴール裏もホームサポーターが占拠。アウェイサポ専用シートというのが一応あったんだが,下の写真の赤枠部分のみという寂しい状態。


    個人的には,昔,駒場で浦和-札幌戦を見た時のことを思い出した…

  2. 横断幕や大旗があることはあるが,意外に少ない。

  3. それでいて,ブーイングは強烈。ホームチームがゴールした直後に,ゴール裏から上のアウェイサポ席へ向けて「ざまぁみろ」的コールを浴びせかけるようなのまであって,ちょっと日本では考えにくい。

  4. 酒売り場にアクセスできないアルコールフリーの観客席がある。こっちではコンサートなどの客席でもアルコールフリーがあったりする。ヨーロッパのスタジアムだと酒禁止のところもあるから,それよりは緩いけれど…

  5. 最後にゲームを見てて気付いたこと。今日の試合に限ったことかもしれないが,オフサイドが異様に少ない。というか,公式記録によると,両チームとも結果的にゼロ。これも日本じゃ,あんまり考えられない。ディフェンスが組織的に守るんじゃなく,点で守っている感じに見えることと,ドリブル突破が多いこと,それにペナルティエリア外からも結構シュートを打ってくることなんかが影響しているとは思うが,ゼロってのはすごい。

さて,肝心の試合の方だが,レベルは J リーグに比べると結構見劣りするような気がする。ミスパスというか,とりあえず蹴っただけの「めくらパス」がかなりある,ボールさばきもおぼつかない選手が見られる,サイドからのクロスの精度も決して高くない,見てて戦術的なものも今イチ伝わってこない,などなど。まぁ,サンプルが 1 試合なんで,本当のところはわからないけれど。

今日は,ボール支配率はほぼ同等で,どちらかというとアウェイのニューカッスルが押し気味にゴール前に詰めていたが,決定力を欠き,前半 19 分にメルボルン最初の枠内へのシュートがキーパーの手をかすめて先制。サッカーって得てしてこんなもんだ。後半に入ってもニューカッスルのコーナーキックやシュートが目立ち,後半 9 分に同点に。ここからしばらくこう着状態だったが,ホームのメルボルンが残り 15 分でブラジル人ストライカーのリカルジーニョを投入すると,攻撃にリズムが出て,終了間際にこのリカルジーニョが勝ち越しゴール。


知らないオッサンに抱きつかれるわ,ハイタッチ求められるわ,上の席からビールしぶきが飛んでくるわの大騒ぎだったが,こういうとこは万国共通かも。

このスタジアムは街の中心から 2 キロくらいのオリンピック・パーク内にある。来る時はトラムに乗ったが,帰りはかなりの混雑が予想されたので,ヤラ川沿いをぶらぶら歩いて街に戻った。夜の 8 時半くらいで,ちょうど薄暮の状態。夕暮れ(って呼んでいいのか?)の街がきれいだった。


明日は天気いいかもね。

2010年12月26日日曜日

ユールムスト

以前,Tommi からもらったユールムスト。スウェーデンではクリスマスに飲む(っていうか,クリスマス前後だけ異常に飲む)と聞いていたので,クリスマスまで待っていた。

昨日,隣のマツモト先生ご一家と夕食をご一緒したので,その時に開けてみた。


見た目はコーラかガラナって感じ。写真では泡が消えてしまったが,発泡性で,ビールに似た泡が出る。「ビールの代わりになるノンアルコール飲料」という話だが,香りも味わいもビールとはかなり違う。何とは言わないが,北欧の食料品にはかなり独特なものも少なくないので,少なからず警戒していたんだが,なんていうか…まぁ,普通だったね。無難な予想の範囲内。

ちょっと木イチゴに似たベリー系の香りと甘酸っぱさが特徴かなぁ? そういう意味ではビールとも違うし,コーラともかなり違う。まぁ,子供から大人なまで飲みやすいソフトドリンクではあると思う。

ただ,これを月に一人 5 リットルも飲むか,というと,かなり ???

誤解を招かないように言うけれど,決してまずくはない。美味しかった。さっぱり,という感じではないけれど,食事にも合わせられるとは思う。だけど,大量に飲むのは,ちょっと厳しいかもなぁ。ビールなら大量に呑めるけどなぁ。

2010年12月25日土曜日

真夏のクリスマス・完結編

さて,昨日のクイズの答えを発表します。

正解は「3人」でした。
(左側の二人はわかりづらかったね。)

ちなみに,今日もビーチに行ってみたら,昨日より増殖していた…

かなり本物に近く,暑苦しいのも…(しかも,オンナ…)

以上,2010 年のクリスマス特集を終わります。


《おまけ》

ちなみに,かなり強引な BBQ を発見…

2010年12月24日金曜日

真夏のクリスマス・後編

調査報告書

調査日時: 2010 年 12 月 24 日(金) 15:00~17:00
調査地: St.Kilda Beach, Melbourne, Australia

南半球におけるサンタクロースの生態について,調査を行なった。調査日時として,年に一度の激務に出る直前,クリスマス・イヴの昼下がりを選択した。

午後 3 時ころ,フラッとビーチに現れ…

仲間とボール遊びに興じ…

一時,読書休憩…

海沿いのカフェで任務前のひと時をリラックスして過ごす…

本当に今夜,任務に出かけるのかどうか,微妙な情勢だが,調査員はこの後,聖パトリック大聖堂で行なわれた Vigil of Christmas ミサに参加したため,調査はこの時点で終了した。

ちなみに,サーフィンをする姿は確認できなかったが,素人が重たい衣装をまとって波に乗るには,ビッグウェイブ過ぎたことも一因と考えられる。

また,写真を見て明らかな通り,上半身裸ないし半袖 T シャツ等の軽装である姿しか確認できなかった。理由は定かではないが,熱射病対策であるとも考えられる。

以上。

特別付録

クイズ:下の写真にサンタクロースは何人いるでしょう? 
(解答は明日発表します。)


…ホリ先生…この辺で許してもらえるでしょうか? 

2010年12月23日木曜日

仕事納め

今日は日本はお休みなんですねぇ。どちらさんも来週の前半には仕事がおしまいで,忙しい年の瀬を迎えていることでしょう。

こちらも,研究室のあるビルディングが明日の夕方で閉鎖。本格的な夏休みに入ります。

「夏休み」なのよねぇ。

頭ではわかっていても,カンカン照りで暖かいと何だか調子が狂うし,年末って感じがしない。


こんなに気持ちの良い青空が広がっちゃうとねぇ。

さぁ,ビルも閉まるし,明日はちょっと野暮用があるので,事実上,今日で仕事納め。今日は,あまり気の進まなかった仕事を済ませたし。とりあえず懸案だったことはほぼ終了。というわけで,休み中はしっかり遊んで(*),仕事のことは考えないようにしないとね。この国にいる意味がないからね。

(*)「おめー,いつも遊んだり呑んだくれたりしてるだろ」ってツッコミはご勘弁。

2010年12月22日水曜日

夏到来

メルボルンの天気は変わりやすい。しかし,こっちの人に聞いても今年はちょっと異常気象っぽい。30度を超えるような日があったと思ったら,ここ数日は朝晩は暖房を入れないと過ごせないくらい寒かった。

しかし,今日はかなりいい天気。これから向こう 5 日くらいも晴天が続きそうなんで,リアルサーファーなサンタも見られそうだ。

というわけで,この辺で,俺様的には,今日を持ってここメルボルンにも夏到来宣言をしたい。

というわけで,酒屋で買って,ずっと保管してあった

「夏の到来を告げるビール」

を今日開けた次第。

Prickly Moses : Saison 2010

いやぁ,このビールを見つけたのは本当に偶然。いつも行っている酒屋に 4 本しかなかったのをゲット。セゾンビールと言うのは,主にベルギーで冬から春先に仕込まれ,初夏から夏に向けて供される季節のビール。フルーティで甘酸っぱく,爽やかな風味が特徴だ。


ボトルも 750ml 瓶なんで,ちょうどスパークリングワインを思わせる。ただ,泡は豊かで,濃いめの黄金色に真っ白い泡のコントラストが何とも美しい。写真では濁っているように見えるが,これはグラスについた水滴のせいで,実際は下からのぞき見ると美しい泡の下面がくっきりと見えるくらい澄んでいる。

香りは,やはりフルーティだが,ホワイトペッパーを思わせるようなスパイシーなアロマもある。フルーツに例えると何の香りかというと(佐野量子か!古っ)桃のような香りが強い。そこにほのかにパイナップルとか梨に似た香りが絡み合う感じ。ボディはミディアムで,カーボネーションはやや強め。モルトの甘みよりも,香りを感じたような桃のフレーバーが支配的で甘酸っぱい。苦味もほどほどであまり主張せず,夏にさっぱりと楽しむのに適した味わい。ただ,さわやかなだけでなく,最初に述べた通り,ペッパーを思わせるスパイシーなアロマが複雑さを演出しているところもニクい。フィニッシュも酸味とほのかな苦味が喉の奥で後を引く。悪くないね。ただ,この手のビールをあまり呑んだことのない向きには,抵抗があるか,恐らくビールとは信じがたい味わいかもしれない。

ちょうど,ナシや桃が入ったドライフルーツの詰め合わせが戸棚に入っていたので,それと合わせてみた。悪くないね。


Prickly Moses は,ここヴィクトリア州にある Otway Estate のブランドだが,ここのビールには個性的なものが多い。このセゾンも,本場のベルジャン・セゾンをうまく踏襲しつつ,個性を主張している感じで個人的には好きなタイプ。

さぁ,本格的な夏

そしてホリデーシーズン到来です。

仕事してる場合じゃないです。

明日から仕事のレスポンスは低下します!
(これ読んでドキッとした方,すいません…)

2010年12月21日火曜日

年末年始

1 月に家族がメルボルンにやってくるんだが,現金をどのくらい持って行けばいいか? ってことを聞かれたんで

僕が ATM で下ろせるから,ほとんど要らないんじゃん? 

と答えた。僕はこっちで 1 年暮らすに当たり,こっちの銀行に口座を作らず,日本の銀行の国際キャッシュカードで定期的に ATM から現金を下ろしている。こっちで ATM を操作すると,即時に日本の口座からその時点のレート+手数料で引き落とされる。手数料(追加レート含む)がかかるが,その他のメリットも考慮して,これを使っている(ただ,今は新規契約できないらしい。)。

ところが,

年末年始ってどうなるんだろ??

とちょっと不安になった。こっちの ATM は恐らくずっと動いている。だから操作はできるはず。問題は日本の銀行とのやりとりが確立しているのかどうかだ。

ちょっと調べてみたけれど,どういう仕組みなのか,よくわからなかった(知ってる人いたら教えて!)し,オーストラリアの場合,あまり問題にならないけど,時差の関係で,日本が夜であっても引き出しは可能だ。ってことは,日本側の銀行が閉店していたりしても,365 日 24 時間引き出し可能ってことだと思うんだが…

結局,よくわからなかったんだが,日本の銀行は年末年始も時間短縮はあるにせよ,営業するみたいだから,多分大丈夫だろう。

というわけで,結論。

なんとかなるだろ。

ちょっとオージーっぽい判断基準が身についてきたかもしれない。

2010年12月20日月曜日

衝撃の事実 PART3: Mr.BOO がやってきた!

さてさて,毎度お騒がせ,年末年始,アパートの食堂が閉鎖されるという惨劇をお伝えしてきた『衝撃の事実』シリーズ第 3。今回はシリーズ最大級のサプライズが我々を襲った。

アパートには滞在中のアカデミックビジターの名簿が貼り出されるのだが,今日,名簿が更新されていた。何と,年末年始をこのアパートで過ごすビジターが 4 組ではなく,11 組に増えていた。そりゃ,部屋が満室なのも理解できる。どうやら,前回お伝えしたように

めんどくさいこと言うので,やんわり断られた

わけではなく,本当に物理的に空室がないらしい。

しかし,今日お伝えする驚愕の真実はそれではない。

なんと新しく来たビジターの中に…

Mr.BOO がいたのだ!!


何という新入りの炒り卵!!以下,ピンクのところは広川太一郎の声で

下の僕の名前と比べてわかるように BOO がファミリーネームと思われるから,正真正銘のミスター・ブー。ちなみに香港の方ではなく,韓国人らしい(ちょっと残念)。しかも,正確にはプロフェッサー・ブーなわけだ…

ところが,この Mr. BOO,12 月 23 日には帰国するので,アパートの閉鎖にはハッキリ言って何の関係もないったらタラコの魚の目だ。しかも,ここでこんなこと書かれているなんて本人は知らぬが仏,知ってキリストってなもんだ…

うーん,何か自分で書いてても切なくなってきた…正直キツイ去年のズボンなんで,今日はこの辺で。そいじゃ,またまた,親父の猿股でひとつ

2010年12月19日日曜日

ビールに豆

今日は一日天気が悪かった(雹を伴う嵐!!)んで,家に引きこもり,いろいろな雑用を済ませていた。

そんな一日のシメは,昨日酒屋で買った Little Creatures のシングルバッチ Brown Ale をテイスティング。そして,酒の肴にはミックスナッツでもあればいいんだが,ちょうどテレビで放映していた

The Best of Mr. Bean

いやぁ,割と好きなのよね,Mr. ビーン。今日も,駐車場とか飛び込み台とか女王迎えるやつとか,見たことあるネタが多かったんだが,七面鳥かぶるやつなんて秀逸で,何度見ても笑える。

そういえば,昔,香港に旅行した時,たまたま映画館の前を通ったら,劇場版「Mr. ビーン」をやっていて,同じ映画館でジャン・クロード・ヴァン・ダムの「サドンデス」も上映していた。当然,看板のタイトルも漢字で書かれてあるわけで,悲しいかな

豆先生 突然死亡

と表示されてた。看板だけであんな笑えるのも珍しい。そりゃ,豆先生も浮かばれないっスよ。

おっと,ビールの話をするのを忘れるとこだった(こっちがメインのつもりだったのに…)。

色は赤みがかったアンバー。通常,ブラウン・エールと言うとモルトの特徴が支配的でキャラメルのような深い甘みのあるスタイルを思い浮かべるが,このビールは全然違う。そういう意味では,トラディショナルなイングリッシュ・ブラウン・エールのスタイルではない。ほのかにモルトの香りもあるものの,ホップ由来のフルーティなシトラス系のアロマが支配的。カスケードとギャラクシーに,タスマニア産のハラタウとトパーズも合わせていると書いてある。口に含むと,ほのかにカラメルやトフィーのような甘さもないわけではないが,やはりグレープフルーツを思わせる酸味と苦み(48 IBU)が勝っている。これは正真正銘,ホッピーなエール。ボディはミディアムで,苦味はしっかりと長い余韻を伴う。想像と全く違っていたけれど,よい意味で裏切られた感じかな?

このビールと Mr. ビーンの相性は…よくわからないが,楽しく呑めたから,まぁ,いいか。

2010年12月18日土曜日

浅瀬

今日はもう一つご報告。

オーストラリアの標識にはユニークなものが少なくないんだが,今日もまた一つナイスなものを発見。


浅瀬,危険

うん,そうだね。

ミント・ニンジャ

新しい戦隊モノとかではない。

今日は前にも訪れた,メルボルンから少し南の Black Rock という街にある True South というブルワリーにやってきた。ランチと散歩を兼ねて,同じアパートのマツモト先生ご一家も一緒。

今日のお目当ては,この木曜日からサーブされている新しいシングル・バッチ・ビールの "Mint Ninja"。これをテイスティングするためにやってきた。


これがそのミント・ニンジャ。北海道で育種されたホップ「ソラチエース」のみを使ったシングルホップビールで,香りづけにミントも使用。

鼻を近づけるとさわやかなミントの香りが漂う。ただ,ミントだけではなく,ソラチエース特有のシトラス系のアロマも持っており,これからの暑い季節にちょうどいい爽やかな風味が特徴。 ソラチの特徴はフレーバーにも顕著に顕れていて,モルトの甘みよりも,グレープフルーツやレモンのような酸味や,シャープで爽やかな苦味が長く続く。飲みやすさと味わい深さの両方を兼ね備えた逸品。限定醸造にしておくには惜しいと思う。

ソラチエース」は,もともとはサッポロビールが開発したホップで,最近になって,あちこちのマイクロブルワリーも注目し始めた品種。僕がこれまでに呑んだものでは,日本の常陸野ネストビールの "Nipponia" とか,イタリアの Toccalmatto の "Zona Cesarini" なんかで使われていたし,スコットランドの Brewdog もこれでシングルホップの IPA を作っているらしい(コレ,どっかで呑めないかな?)。

で,ミントニンジャの説明書きがこちら。繰り返すようだが,新しい戦隊モノではない。


今日は,午前中はどんより曇っていたんだけれど,午後はだんだん晴れてきて,ブルワリーからの帰りは Sandringham の駅まで海沿いの道をぶらぶら散歩。気持ち良かった。


季節がら,道沿いの家々もクリスマスの装飾が施されているところが多かったんだが,なかなか独創的なものも少なくない。


これなんて,ほぼ不法侵入者…いや,ひょっとして…

忍者??

2010年12月17日金曜日

島時間

日本では今,某首相が南の島に行ってひと悶着起こしているらしいが,タイトルの「島」はそっちの話じゃない。

オーストラリア

の話。ここは大陸。島じゃない。だけど,(前にも書いたとおり)ここにはどうも島時間が流れていると思う。

大体,何かを問い合わせたり,頼んだりしても 1 回で済んだことがない。1 回連絡して,しばらく経っても何の返事もないから,

どうなってますかぁ? 

と問い合わせ直して,そこから事が動く。

なんだろね。予告編流して,しばらくしてから本編流すような感じかね。

慣れないと,かなりフラストレーションが溜まるんだが,あらかじめそういうもんだとわかっていると対応できないこともない。少し早めに前振りを出しておいて,しばらくして本当に必要な時に聞き直す。これがコツ。

今,こっちの国内会議のために書いている論文の件で,火曜日に実行委員会あてにメールを出した。まぁ,その時はまだ時間的に余裕があったんだけど,今日になっても返事がないので,問い合わせ直したら,電光石火で返事が来た。

そんなにすぐに返事できんなら,最初っからすれよ。

と言いたくなるが,これがオージー流。ってか,これくらいならまだマシな方。

これに慣れてくると,こっちも

まぁ,すぐに返事しなくてもいっか。
そのうち,もっかい聞いてくるだろ。

的な心理状態になるから危険。慣れ過ぎると,やっぱ日本に帰ってから社会復帰できないだろうか?? …でも,日本流に戻る気もあんまりないから,別にいっかな??

2010年12月16日木曜日

ミドリ

成田三樹夫の血ではない(このネタ今どきわかる奴いないかもな)。

唐突だが,日本には大手ビール会社は 4 社ある(成田三樹夫のことはもう忘れよ。)。

ところが,僕が学生時代,英語の先生だったゴードンはこんなことを言い放った。

日本にはビール会社が 3 社ある。
サッポロ,アサヒ,キリン…

サントリー

は,ビールを作ろうとしている…
が,ビールを作れてはいない

辛辣…15年ほど前の話。そんなサントリーがプレミアムモルツのような名作を世に送り出そうとは,僕もこの時は微塵にも思わなかった。

そう,日本には,大手ビール会社は 4 社ある。

ところが,ここオーストラリアでオージーに聞くと,日本のビールは

サッポロドラフト
アサヒスーパードライ
キリンイチバン…

おいおい,サントリーは?? どうやら,彼らはサントリーのビールを知らない。で,ある日聞いてみた。「サントリーは?」と…そうすると,驚くべき答えが…

サントリー? 
知らん…

あ,「ミドリ」作ってるとこか? 

なんだよ,「ミドリ」?? …恥ずかしながら知りませんでしたよ,サントリーのミドリ。調べたら,日本でも売ってる。700ml で希望小売価格 2,200 円(詳しくは公式サイト参照。)。ここオーストラリアではサントリーは,ビールでもウィスキーでもなく,「ミドリ」作ってる会社って認識だよ。サントリーの社内でミドリがどの程度の地位を占めているのかは知らないけど,そりゃ,ちょっと無いんじゃないの??

前置きが長くなったが,今日はその「ミドリ」の話。先日酒屋で見つけたので,チャレンジャーな僕はご購入。これがミドリだ!!


メロンのリキュールって書いてあるよ(買う前に読めよ。)。うーん,微妙。度数は 20 度。とりあえず,炭酸水:ミドリ = 3 : 1 で割ってみた。


うーん,何かどっかで見たことある感じ…

飲んでみた。

うーん,この味知ってる…

何だっけ??

かき氷だ!!

これ,かき氷のシロップの味だ。なつかしー。でも,too artificial !! これ,そんなに美味いか?? オージーに聞くと,

「ミドリ」はウマいよ

ってことだったけど…

少なくとも,日本人である僕は全く知らなかった「ミドリ」…日本でのポピュラリティはどんなもんなんだろ??

それもそうだが…これ,残り…どうしよう??

2010年12月15日水曜日

真夏のクリスマス・前編

こないだ,ウチのガッコのホリ先生からメールでこんなことを聞かれた。

南半球でのクリスマスって
全く想像がつかないのですが,
サンタさんは、本当に半パンはいて
サーフィンして現れるのですか?

うん,まぁ,聞きたくなるよね。ホントにそんな人が現れるかどうかは,クリスマスまで待たないばなんないが,印刷物なら探すのは比較的簡単だと思った。

子供にクリスマスカードを送ろうと思って,どうせなら,オーストラリアならではのステレオティピカルなやつにしようということに。 しかし,本屋に行ってもグリーティングカード専門店に行っても,夏のクリスマスっぽいのは売ってない。どこに行っても,トナカイが引くそりに乗ったサンタだとか,モミの木に雪だとか…そんなんばっかり。なんだよ,それ…

思ったんと違う。

…ってか,

事実と違う。

ところが,ある日,別件で郵便局に行ったら,やっとありましたがな…


これだよこれ。これが欲しかったんだよ。でも,なんで,他んとこには全然売ってなかったんだろ?? 多くのクリスマスカードが Made in China だったり…なんて可能性もあるが…それとも,オージー的には,ステレオティピカルな「夏のクリスマス」のイメージを払拭したかったりするんだろうか? なんていうか,

やっぱ,クリスマスって冬でしょ

っていうオージーの憧れの現れなのかな?? …しかし,君らがいくらあがいても,ここでは雪なんか降っちゃくれないんだよ。…残念!!

とにもかくにも,印刷物でならご所望のサンタがいましたよ,ホリ先生。

リアルサーファーなサンタクロースに出会えるかどうかは,後日,「後編」をお楽しみに。

2010年12月14日火曜日

記憶の糸

今日は,記憶を辿る一日だった。

まず,S 南工科大学の A 先生(わかる人には伏せ字の意味ないな…)からのメールで,13 年前の出来事について。ちょうど僕が学位を取って電通大の助手になる直前くらいの話。断片的な記憶はあるんだが,どうもはっきりしない。ただ,メールのやり取りをしているうちにいろんなことを思い出した。

次は,東京高専の僕と同じ学科の Y 先生からのメール。3 年前に僕が担当した仕事について。これもちょっと前のことなのによく覚えてない。学生の顔とか,学生と何を話したかは覚えているんだけど…

最後は,今指導している学生とのやり取りをきっかけに,ここ 1 ~ 2 年,何人かの学生にさせていた研究や実験の内容を思い起こした。「このとき,何で彼にこういうことさせてたんかなぁ?」みたいな話。さすがにこれは今も進行形なので,すぐに記憶がつながったけど。

いやぁ,人間の記憶って曖昧なものだね。こういうとき,やっぱり最終的に決め手になるのは物的証拠だったりする。上の 3 つのケースは,どれも物的証拠が上がって,あやふやな記憶が確信に近付いた。取っておくと良いこともあるのだ。


ところで,今日は学生向けの実験教材を作っていた。ウチの専攻科生向けの実験で,簡単なステガノグラフィに関するもの。まず,画像データに対し秘密情報の埋めこみと抽出を行なうプログラムを用意する。自作しても良いが,今どき,ネットを検索するとピンからキリまでゴロゴロ転がっている(このことの是非はとりあえず今は問わない)からそれを使っても良い。

実験テーマの一つは,これらを用いて実際に何らかの秘密情報ファイルを画像に埋めこみ,埋めこむ情報量とこれらの透明性(埋め込んだ後の画像(ステゴ画像)を観察して,埋めこまれた事実が確認できるかどうか)のトレードオフを検証することと,ステゴ画像から秘密情報が正しく抽出できるかどうかの確認。実験テーマの 2 点目は,ステゴ画像にベンチマークテスト用のプログラム StirMark を適用することで,さまざまな攻撃を加えた画像を作成し,これら攻撃後の画像から埋めこまれた秘密情報が抽出できるかどうかを調べる実験。いずれも難しくはないけど,手間がかかる。こういうことを専門でやっている学生も,そうでない学生も対象にできるので,実験とか演習のテーマとしては,適当なんじゃないかと思う。

ちなみに,僕は専攻科生向けの授業や演習のテキストは英語で渡すことにしているので,これらも英語で作成。学生にとってはこれも修行の一つ。

2010年12月13日月曜日

解読失敗

毎週月曜日は Lygon St. の Cinema Nova が安い日。

今日,久々の Monday Nova で観た映画は,ナオミ・ワッツとショーン・ペン主演のポリティカル・スリラー "Fair Game" だ。昔,某モデル主演のクソ映画があったが,それとはまったくの別物。こちらは,ブッシュ政権下で起こった『プレイム事件』の映画化。この事件は,中東問題の専門家であったジョセフ・ウィルソンが「イラクに大量破壊兵器は存在しない」と主張したことをホワイトハウスが(ってかブッシュが…)憂慮し,その報復として,彼の妻ヴァレリーが CIA のエージェントであったことがメディアに暴露されたという事件。まぁ,アメリカって国がいかにひどいところかを示す好例と言えよう。

さて,この事件について知らなければ,緊張感のある政治スリラーとして十分楽しめる。ドラマとしての力強さもある。一方,事件を知っていると,大体話の流れは見えてしまうわけだ。では,映画はどこに力点を置くべきかというと,前半の CIA エージェントとしてのヴァレリーの活躍や,ブッシュやチェイニーをはじめとする米政府内の不穏な動き,それにウィルソン夫妻の葛藤など,公に知られざる部分をどうあぶり出していくか,というところがポイントとなる。

で,ドラマとしては,終盤,離婚の危機まで迎えた夫妻が,アメリカ政府へのリベンジを決意するところが,ある意味クライマックスとなるべきだと思うんだが,どうもここがあっさりし過ぎているように感じた。事件自体を再現したいのか,人間ドラマを描きたいのか,ぼやけてしまった感がある。ここを丹念に描くと,物語として厚みが出たのになぁ,と思う。いい作品だと思うので,いかにも惜しい。

さて,本編については,こんなところだが,この映画のエンドロールにハメられた。最初は気付かなかったんだが,ところどころ,文字が黄色くなっている。

もしかして,ステガノグラフィ? 

なんて思ったもんで,黄色い文字だけつなげて読んでみたんだが,意味不明。黄色の次の文字だけ読んでみようかな? と気持ちを切り替えたら,ほとんどテロップは終わってしまった。

んんんん,多分,全然意味はなかったんじゃないかね? (←負け惜しみ)。もう一回見れ,っていうことかな? もう一回見たってわかんないと思うけどな。DVD 買って解読すれってことか?? いや,そう思わせて DVD 買わせようという姑息な魂胆に違いない!! しかし,こうして製作側の術中にまんまとはまっていくわけか。でも,実際,DVD 買ってまで見るほどではないしなぁ……暗号方式の事例研究ということで,研究費で…いやいや,こういうことは言っちゃいかんね。いかん,いかん…

2010年12月12日日曜日

Some Like It Hot

歌は世につれるが,世は歌につれない

とは山下達郎の名言だったが…

今日は,メルボルンのアート・センターで開催されている "Rock Chicks" という展示を見に行ってきた。


これは 20 世紀初頭から現在までのオーストラリアのポピュラー音楽の歴史を女性アーティストという側面から辿ったエキシビション。ぶっちゃけ,展示されている女性アーティスト達の名前はほとんど知らない。よく知ってたのはオリビア・ニュートン・ジョンとカイリー・ミノーグぐらいだ(我ながらヒドイ話だとは思うが,普通,こんなもんだろ)。

ただ,オーストラリアのミュージック・シーンというのは世界の中ではマージナルな存在とは言え,ロンドン辺りの影響をモロに受けていると思われるので,各時代の潮流をいち早くキャッチしてきたんだと思う。女性じゃなければ, AC/DC 辺りは別格としても, Inxs とか Crowded House,それに Men at Work なんかも世界的に売れたし,話題的には Midnight Oil なんてバンドも知られているだろう。女性アーティストはなかなかビッグネームを挙げられないけれど,個人的に最近好んで聴いている中では,マイケルの "THIS IS IT" でブロンドのギタリストとして注目された Orianthi とか,ジェフ・ベックのバンドでベースを弾いている Tal Wilkenfeld なんかがオーストラリア出身だ。

このエキシビジョンで展示されているのは,過去 100 年にわたる女性ミュージシャンたちの写真や衣装,ギターなどの楽器,レコードジャケット,ライブの自筆セットリストなど幅広く,それなりに見応えがある。しかし,やっぱり何と言っても時代時代の音が聴きたいわけだが,ビデオスポットが数か所に設置されていて,すべて合わせると 2 時間を優に超える映像アーカイブを閲覧できる。昔のポップスも悪くないけれど,やっぱり面白かったのは 70 年代のパンクムーブメントから現代に至るまでのロック。Divinyls など,パンクとか 80 年代のニュー・ウェイブの影響を受けたバンドや,90 年代グランジ以降の流れを汲む辺り(Spiderbait とか)なんかが,なかなか良かった(Spiderbait の "F○cken Awesome" のビデオクリップは "FXXX" の "XXX" の部分の音が飛ばされてるのが,仕方ないとは言え,イタかったが…)。

というわけで,映像をメインに 3 時間近く堪能してきた。確かに「世は歌につれない」かもしれないけれど,その時代の息吹や,彼女たちが時代ごとに何を伝えようとしていたのか,そのヒントは展示全体を通して浮き彫りのように見えてくるような気がする。いや,ロックが好きならこれは必見。


アートセンターにて,2 月 27 日まで。入場無料。

2010年12月11日土曜日

New Classic

今夜,メルボルンの Regent Theatre で,2010 年の AFI (Australian Film Institute) Award 授賞式が行なわれた。これは,アメリカでいうアカデミー賞に相当するもので,映画とテレビ業界におけるオーストラリアで最も権威のあるもの。

今年の AFI アワードはこの作品のためにあると言っても過言ではなかった。その作品とは

Animal Kingdom

原題のまま表記したのは,この作品の日本公開が現時点で未定だから(悲しすぎる)。しかし,この作品,興行成績こそ,今年度の国内第 3 位に甘んじたものの,評判は極めて高かった。ストーリーは,母親を亡くした少年が祖母の家に引き取られるが,そこの家族がメルボルンの裏社会に暗躍する犯罪一家で…という話。実際の事件にインスパイアされたオリジナル作品ということだ。舞台がメルボルンで,撮影もほとんどがメルボルン市内で行なわれている。僕も市内の映画館で観たけれど,その力強い描写に息を呑んだ。

この作品,AFI アワードでは,長編劇映画としてノミネーションを受けられる全 16 部門のうち,15 部門で 18 のノミネーションを受けるという記録的快挙を成し遂げた。ノミネートされなかったのは,視覚効果賞だけ。これは作品の性格上いたしかたないだろう。部門数とノミネーションの数が合わないのは,主演男優賞で 4 人中 2 人,助演男優賞で 4 人中 3 人(!! 刑事役のガイ・ピアースを含む)がこの作品だから。つまり,主演・助演の 4 賞で 7 人の役者が受賞候補になっているということで,日本でもアメリカでも,ちょっとこんなの聞いたことがない。主要人物はほとんどノミネートされている感じ。

で,結果はというと…ノミネートされた 15 部門中,
  • 作品賞
  • 監督賞 (David Michôd)
  • 主演男優賞 (Ben Mendelsohn)
  • 主演女優賞 (Jacki Weaver)
  • 助演男優賞 (Joel Edgerton)
  • オリジナル脚本賞 (David Michôd)
  • AFI メンバーズ・チョイス賞
  • 編集賞 (Luke Doolan)
  • 作曲賞 (Antony Partos, Sam Petty)
を制覇。主要な賞はほとんど持ってった感じで,これは快挙だ。

このうち,今回の受賞者の中でも特筆すべきは,主演女優賞を受賞した Jacki Weaver だろう。彼女は主人公の少年の祖母役で,この犯罪ファミリーの「ゴッドマザー」的存在。彼女の存在感がなければ,この作品の成功もなかったんじゃないかと思わせるほどの名演であったと思う。

実は,この作品はアメリカを含む海外数カ国でも公開されていて,先日発表されたアメリカのナショナル・ボード・オブ・レヴュー賞で,Jacki Weaver は助演女優賞を受賞している。アメリカでもかなり評価が高いようで,アカデミー賞の助演女優賞の有力候補との噂もある。

僕もこの映画は本当によくできた作品だと思うし,彼女の演技の迫力,存在感にも圧倒された上,何と言ってもメルボルンが舞台ということもあって,ぜひ本場のアカデミー賞でもひと暴れして欲しいなぁ,と思っている。

しかし…この映画,日本公開はないんですかね? オスカーを獲ったら遅れて公開ってこともあるかな? それとも DVD スルーだろうか… DVD にもならないなんてことはないよね??

オーストラリアでは DVD と BD が既に販売されていて,特にブルーレイはリージョンフリーみたいだから,日本で紹介されないという最悪の事態を考えて,買って帰ろうかなぁ,なんてちょっと思い始めているけど…どうなんだろう??

2010年12月10日金曜日

前進せよ

たまにはまじめなこと書くぞ。

あんまり知られていないみたいだが,オーストラリアの国歌は "Advance Australia Fair" というそうだ。和訳では,

前進せよ,美しのオーストラリア

という。

一方,寺山修司はこんな言葉を残している。

振り向くな,振り向くな,後ろには夢がない。

もうちょっと理系な人では,ヤコビアンでおなじみ,ドイツの数学者 カール・グスタフ・ヤコブ・ヤコビが

つねに遂行せよ。

なんてことを言っているらしい。

…まだ,話が見えませんね。

さて,僕の職場ではここ 3 年,「国際通用力のある若き実践的エンジニア育成」プログラムという事業(通称:SPHERE TOKYO プロジェクト)を進めてきた。これは文科省が指定する「質の高い大学教育推進プログラム(教育 GP)」の一環で,国際舞台で英語を使ってプレゼンやディスカッションができるような若い技術者を育てるための教育システムを構築する,というのが主たる目的。

今年は 3 年計画の 3 年目で,今日,3 年間の最終成果報告会があったらしい。僕もこのプロジェクトの幹事の一人として計画段階から関わっていた(一応,ロゴデザインと SPHERE の命名は僕の作品…無報酬……無報酬…)んだけれど,一番大事な最終年度に海外に高飛びしたというわけ。そのせいで,何人かの先生方にはいろいろと想定外のご負担をかけてしまった。ごめんなさいね。いや,ホンット,申し訳ない。

さて,プロジェクトの目的は上に書いたとおりだが,この事業を通して学生に伝えたいことは「英語って大事だよ」ということだけではない。誤解を恐れずに言えば,「英語」はもっと大切なことを伝えるための媒体に過ぎないかもしれない。で,本当に伝えたいことは何かというと,

とりあえず,やってみろ

ってことだ。ウチの学校に限ったことじゃないと思うが,自分が学生だったことに比べると,積極的で元気のいい学生が少なくなってきたような気がする。昔はもっとバカみたいなことを後先考えず,本気で始める元気と勇気のある輩が多かったように思うわけ。

まぁ,後先は多少考えてくれないと困るんだが,それでも何もしないよりはやってみた方がいい。10代のうちから失敗を恐れて手を出さないというのは,もったいないと思う。やってみることのメリットは計り知れないし,仮に失敗したってそこから学べることは多い。それに結果はともかく,トライしたことによる経験値は絶対に糧になる。年寄りになってからは失敗すると取り返しがつかないこともあるから,学生のうちの特権だと思うんだけどね。特権が与えられているのに使わないなんて,ホントもったいない。まぁ,「特権」だと気づいていないって話もあるけどね。

だから,このプロジェクトを通して,できるだけ多くの学生に積極的に一歩前に出る経験をして欲しいというのが僕らの本音の部分にあったわけ。
(そうですよね? 僕,暴走してませんよね? >> 他の先生方)

かくいう僕も学生時代,なんでもかんでもやってきたかというと,そうでもない。「あれもやりたかった。」「あんときこうすればよかった。」ってことがないわけじゃない。でも「あれはやってみてよかったなぁ」って経験だって確かにあるわけだ。で,そういうときに積んだ経験ってのは,今でも自分の行動原理の一部になっていたりすると思うんだよね。

ということで,学生の皆さんには,今のうちにいろんなことにチャレンジして経験値を高めてほしい。で,その経験値を活かして,懐の深い「素敵に遊べる」大人になって欲しいと思うね。

僕もまだ修行が足りないと思うし,もう少しいろいろやってみようという悪だくみは尽きない。もう少し,遊んでみようかね? ってね。……暗に自分の行動を正当化してるわけでないぞ。念のため。

2010年12月9日木曜日

続・衝撃の事実

すんまへん!(←「あかんたれ」の秀松風に…)

書くの忘れてました。

先週末,「衝撃の事実」をポストした後,今週になって,その後の展開をフォローするのを忘れてました。楽しみにしてた方,ごめんなさい。

まぁ,楽しみにしてた方は,あんまりいないと思うけど,blogger の統計データ上は「衝撃の事実」を観てる人が結構いるようなので,一応ね。

話が見えず,上のリンクも辿りたくない人のために一応おさらいしておくと,この年末年始,12/24 から 1/4 までの間,僕の住んでいるアパートの食堂(3 食ともサーブされる!)が閉鎖されるので,我々住人の飯がどうなるのかという問題。で,この期間は自炊するべく,フルキッチンのついた広めの部屋に安い値段で移らせてくれ,と交渉した,っつぅ話。

すぐ返事が来ると思ったのだが,結局,返事が来たのは昨日(この辺はお国柄)。で,結末は…

大きい部屋はどこも空いてない

ほんまかいな。少なくともアカデミックビジターは僕を含めて 4 人くらいしか年末年始いないはず。大きい部屋は少なくとも 10 部屋ある。んんんんん,どう考えても計算が合わん。子供でも分かるでぇ。その間,誰がその部屋使うの? 誰がブッキングしてんの?

まぁ,想像するに
  1. 食事なしの素泊まりを条件に,大学関係者や外部の人に格安で貸し出している。
  2. めんどくさいことをいうのでやんわり断られた。
くらいしか思いつかん。この間,レセプションも含めてここのスタッフはほぼいないはずなので,短期滞在者が次々やって来ても鍵の受け渡しは不可能。だから,普通のホテル風な貸し出しはできないと思うんだよね。

まぁ,いずれにしても,我々の野望は砕かれた。この年末年始は外食 or 公園でバーベキュー or 電子レンジで簡単クッキングのいずれかで食いつなぐことになりそうだ。公園にはバーベキューピットがあるので,雨さえ降らなければ,なかなか魅力的ではあるんだけどね。8 時くらいまで明るいしね。でも,毎日はきついけど…

部屋で料理しようにも鍋がないしね。キャンプしたから野宿用のちっこいコッヘルは持ってるけどさ…

実際にどう過ごすかは,またその頃にリポートします。

2010年12月8日水曜日

textext で日本語

ずいぶん前に inkscape と textext を導入して,Tex の数式を含む図を作成する環境を整えた話をした。

たいてい,論文は英文で書くので,当然図の中の文字も英語なもんで,あまり気付かなかったのだが,何もしないと textext では日本語が通らない。日本語で書いている本の挿絵でも作ろうかな~と思ったもんで,textext で日本語が使えるよう,設定した。

以下,こちらこちら,およびこちらを参照して,自分が行なった作業を記録として残す(以上の参照サイトに掲載されている以上の情報は何もない。あしからず。)。

[1] Inkscape\share\extensions\textext.py の 54 行目 "import inkex" の下に以下を追加:

import codecs

[2] 735 行目を

            #f_tex.write(texwrapper)

とコメントアウトして,その下に以下の 2 行を追加:

            sjis_tex = codecs.getwriter('shift_jis')(f_tex)
            sjis_tex.write(texwrapper)

これで文字コードを sjis に変換して Tex に渡すことができる。
ちなみに python では行頭の空白も揃えないと正常に動かないので注意(タブなんかを使わないこと。)。

[3] 742 行目を

        #exec_command(['pdflatex', self.tmp('tex')] + latexOpts)

とコメントアウトして,以下の 2 行を追加:

        exec_command(['platex', self.tmp('tex')] + latexOpts)
        exec_command(['dvipdfmx', self.tmp('dvi')])

これは日本語を処理できない pdflatex の代わりに platex と dvipdfmx を用いるための設定。

[4] 863 行目 の "# Exec pstoedit: pdf -> svg" の下に

        exec_command(['gswin32c', '-dSAFER', '-q', '-dBATCH', '-dNOPAUSE',
                      '-sDEVICE=epswrite', '-dEPSCrop', '-r9600',
                      '-sOutputFile='+self.tmp('eps'), self.tmp('pdf')])

を追加。さらに,その下の3行を以下のように変更:

        exec_command(['pstoedit', '-f', 'plot-svg',
                      self.tmp('eps'), self.tmp('svg')]
                     + pstoeditOpts)

ちなみに変更箇所は 2 行目の "self.tmp" の中を 'pdf' から 'eps' にしただけ。これにより,フォントをアウトライン化して eps 形式で吐き出す。

[5] 以上の書き換えを行なった python のスクリプト "textext.py" を別名 "textext-jp.py" として保存。また,この "textext-jp.py" に対応させるため,"textext.inx" をコピーしてファイル名を "textext-jp.inx" とし,中身を適宜書き換え。

これにより,日本語を使いたいときはエクステンションとして textext-jp を,そうでないときは従来通り textext を用いることができる。

これについてはこちらを参照したが,このことでどの程度のご利益があるかは不明。少なくとも日本語を用いない場合は,今回新しく作成した拡張ファイルを使わなくても良いので,これまで安定して動いていた環境のまま,ということにはなる。


以上でおしまい。ちなみに,出力例は下図の通り。


これで教科書の挿絵が作れそうだ(ちなみに,上の例は執筆中の教科書とは何の関係もない。)。

2010年12月7日火曜日

純粋であること

今日は青臭いこと書くけど…ごめんなさいね(いきなり謝ってどうする…)。

さて,先日,映画「告白」を観た後で,あの映画のウラには

コミュニケーション,理解,信頼,想像力などの欠如,喪失

が流れている,と書いた。あの作品が,コミュニケーションや信頼,理解の喪失の極北に位置しているとすれば,今日,日本映画祭のクロージング上映で観た成島出監督,堤真一主演の映画「孤高のメス」は,それと真逆の方向に最大振幅振れていると言っていいだろう。

ある地方都市の病院に赴任してきた外科医が主人公。保身的な学閥の医師たちに疎まれるが,院長や看護師,若い医師らの信頼を得ながら,困難な手術を次々と極めて手際よく成功させていく。そんな中,病院の支持者であった市長が病に倒れ,当時違法であった脳死肝移植を行なうことを決意する,というのがストーリーの柱。

実際,マンガにもなっているらしいが,マンガ的な出来すぎたストーリーである。こういう話はウソ臭くなりがちだが,この作品には,そんな嫌味なウソ臭さが感じられない。それには 3 つの理由が挙げられる。一つは手術の描写がリアルであること。ただ,近年の医療ドラマや映画は極めて精巧に作られているので,これは特筆するに当たらない。

2 点目は,堤真一演じる主人公の当麻鉄彦が,腕のいい外科医でありながら,孤高の天才というよりも,人間としての温かみのあるキャラクターとして描かれていることだ。僕にとっての堤真一と言えば,「弾丸ランナー」に始まる一連の SABU 作品をどうしても思い浮かべてしまう。どちらかと言えばクソまじめで面白くもなんともない人間なんだけど,トラブルに巻き込まれて,それが異様におかしいという…「MONDAY」なんて,思い出しただけで今でも十分笑える。だから,どんなにまじめな役を演じていても,何かやるんじゃないかと思って,どうしても観ながらにやけてしまうのだ。そんなこともあるものだから,この映画で主人公が時折見せるお茶目な一面に,「来た来た」と思って,ニヤニヤしてしまう。その意味で,このキャスティングは絶妙だし,この辺りの描写が,この作品のトーンを形成する上で一種の緩衝材になっていると言える。

そして,3 番目の理由。それは,この作品が,人と人とのつながり,信頼,理解,コミュニケーションを明に描いているということだ。主人公は純粋なまでに自らの信念を貫き通す。現実では,そういった場合,何らかの破綻をきたすことが多いわけで,フィクションとは言え,この手の話の流れはウソ臭くなっても仕方がない。ところが,この映画は形式的には医療の問題を扱っていながら,作品を貫くテーマが人間どうしのつながりであるという点,このことがこの作品を支える大きな要因になっていると,僕は思う。

医療の現場に限らず,僕が身を置く教育の世界においても,我々がピュアであり続けることは難しい。現実の社会で起こる諸問題には,多くの場合,最適解が存在せず,我々にはその中から最適解に最も近い準最適解を選択することが求められる。ところが,この準最適解というやつは曲者で,どちらの方向から見るかによって,より数学的に言えば,どの座標軸に射影するかによって「最適」であることの意味合いが変わってくる。このような状況で,この映画の主人公のように純粋であり続け,ぶれることなく自らの信念を貫き通すことは非常に困難だ。僕自身,運よく比較的良い解を見つけられたこともあれば,苦い思いをしたことも少なくない。そんな,ある種「究極の選択」を迫られた場面で,何をよりどころにするかというと,やはり人間どうしのつながり,信頼や理解,意志疎通に他ならないと思う。いかにこの物語が一見,作りものめいた体裁をしていようとも,作品を貫くこのテーマが僕にはリアルに訴えかけてきたし,主人公・当麻の姿に快哉を叫ばせてくれた。

映像作品として難がないわけじゃない。亡くなった看護師の日記を若い医師でもある息子が読みながら過去の出来事を辿るという形式上,モノローグが多いのは仕方ないとは思うが,もう少し処理のしようがなかったか?

でも,そんなことは大きな問題ではなかった。少なくとも僕にとっては,これまでに経験したことを思い出させてくれ,これからのことを考えさせてくる契機を与えてくれたし,良い方向に気持ちをリセットさせてくれたという意味で,感謝すべき素晴らしい映像体験だった。

現実社会の中でバランス感覚を保つことは難しいよ。でも,その中ですべてと言わずとも,どれだけ自分のピュアな思いを保つことができるか。人と接する職業柄,この問題は僕らが常にに抱え続けなくちゃいけないトレードオフ,永遠に解決することのできない未解決問題であると思う。

ま,そこが面白いと言えば,面白いんだけどね。


追記:(最近,これが多い)
ところで…反当麻の医者の一人を演じていた斉藤歩さんの肝臓は,今,元気なんだろうか?

写真のふちをぼかす

画像の周辺をぼかす方法について,前にも調べたんだが,すぐに忘れてしまうんで,自分の手元に残しておくべく,ここに備忘録として記す。

Adobe の Photoshop Elements でもできるが,今回はフリーの GIMP (ver.2.6.11) を使用。

[1] GIMP を起動し,加工したい写真を読み込む。

[2] 「選択」→「すべて選択」,「編集」→「コピー」。

[3] 「ファイル」→「新しい画像」で,「詳細設定」→「塗りつぶし色」→「透明」。キャンバスサイズは[2] でコピーした画像と同じになるはず。

[4] 「編集」→「貼り付け」で,[2] でコピーした元画像をペースト。

[5] 適当な選択ツールでぼかしたい領域を選択(下は楕円選択ツール)。


[6] 「選択」→「選択範囲を反転」。

[7] 「選択」→「境界をぼかす」を選択。「縁をぼかす量」は 5~50ピクセルくらいの値を適当に入力(元画像のサイズと出来上がりイメージに依存)。

[8] 「編集」→「消去」で周辺画像が消去され,縁のぼけた画像が残る。


[9] 「ファイル」→「名前を付けて保存」で適当なフォーマットでエクスポート。JPEG では透明色を扱えないので,他の画像の上に重ねたい場合など,背景を透明のまま残したい場合は PNG なんかを用いると良い。

以上。

補足: inkscape でもできるのかも知れないが,ちょっと面倒くさそうだ。

2010年12月6日月曜日

湿り気と匂い

久々に日本映画らしい映画を観た。

昨日見た「劔岳」「鳥刺し」も日本映画らしいと言えば日本映画らしいのだが,ここでの日本映画はもっと狭義の「日本映画」。

ある時期(たぶん,70 年代から 80 年代初めにかけて)の日本映画には,独特の匂いがあったように思う。湿ったアスファルトや土の匂いだったり,木造アパートのカビ臭い匂いだったり,煙草や安物の化粧品の匂いだったり,生き物としての人間が放つ有機的な匂いだったり…

今日は日本映画祭で根岸吉太郎監督の「ヴィヨンの妻」を観た。太宰治の同名小説を柱に,他の太宰作品のエッセンスを加えて 1 本の映画に仕上げている。主演は松たか子と浅野忠信。厭世的で,死にたいのに死に切れないダメ人間の夫と,楽天的で明るく芯の強い妻。こういうラブストーリーもあるのか,と思わせる。ラストで象徴されるように,二人はあまり互いのことを見ない。対面せざるを得ない留置所のシーン,ここで妻は唯一,悲しみの感情を高ぶらせる。ここを境に,ラストに向かって物語を進める根岸演出も確かで隙がない。よくできた映画だ。

でも,僕が一番唸ったのは,スクリーンに映った演技や映像ではなく,物理的にはスクリーンから伝わるはずのない「匂い」だ。「かおり」じゃなく「におい」。主人公の大谷は「死にたい」と連発し,実際心中未遂もするのだが,スクリーンからは死の匂いではなく,むしろ生の匂いがプンプンしてくる。これはかつての日本映画が持っていた独特な匂いだと思う。冒頭に述べたような湿っぽい雨の匂い,安酒場の煮込みの匂い,そして人間自身が放つ「生」の匂い,これはそこはかと漂うエロスの匂いでもある(見せないエロチシズムも,ある意味,日本映画の宝だと思う)。そう,この映画から感じる匂いは,「生の匂い」と言っても,ヴィヴィッドで明るい朗らかさを感じさせるような匂いではない。それは死と背中合わせになった生の匂いだ。何というか,相転移における臨界点に位置するような…そうか,その意味では「生の匂い」であり,かつ「死の匂い」であるわけだ。「死を見据えた生の匂い」とでもいうべきか。その意味で,この作品からこの匂いを感じるのは必然なのかもしれない。

物語では時折「死の予感」を漂わせながら,ラストはすがすがしいような「生」を感じさせる。表層的な死生観と対照的な「生の匂い」。その振幅の大きさ,ダイナミズムがこの映画の魅力と言えるんじゃないだろうか。

人は誰しもが生きていながら,それは同時に死への道行きでもあるわけだ。「死ぬことは生きることだ」とは誰の言葉だったか?そういえば,太宰好きで知られる宮本浩次も「敗北と死に至る道が生活ならば~」と唄っていたっけ。

そうそう,帝都東京の中心から少し離れた生活圏へと走る中央線が,またこの独特な匂いを増幅しているようにも思えた。

うーん,こっちに住んでて日本料理を食べたくなることはあまりなかったんだけど…踏切沿いの酒場の煮込みが少し恋しくなったなぁ…あと 4 ヶ月は辛抱しないとなぁ…


追記: …と,一通り書き上げて,自分で読み直してみたら,RC サクセションの「いい事ばかりはありゃしない」が聴きたくなった。というわけで,ちょい聴いて,そいで今日は寝ます。

2010年12月5日日曜日

本格派

今日も日本映画祭で 2 本観てきた。今日観たのは,去年,見逃してぜひスクリーンで見たいと思っていた木村大作監督「劔岳 点の記」と平山秀幸監督の時代劇「必死剣 鳥刺し」の 2 本。いやぁ,どちらも映画の醍醐味を思う存分味わえる本格派だった。どちらにも満足。

まず,「劔岳」の方だが,こちらは日本では昨年公開されて,いろんな映画賞を持ってったことでも記憶に新しい人も多いはず。陸軍測量部が三角点を設置するために,前人未踏の剱岳登頂を目指す物語。

木村大作御大は「本物」にこだわり,役者,スタッフと共に本当に登山を敢行し,特撮などではないリアルな立山連峰の映像を大スクリーンに映し出した。(この撮影の過酷さは,キネマ旬報で連載していた香川照之の「日本魅録」に詳しい。)本物の自然の迫力には逆らえない。スクリーンに広がる険しい山々や雲海,色づいた木々の美しさの前にはひれ伏すしかない。雪渓を進む登山隊を俯瞰で捉えたショットなんて,自然の中で人間がいかにちっぽけな存在かを思い知らせてくれる。その骨太な映像に負けじとストーリーも骨太。旧陸軍のメンツ主義はバカみたいだが,自然に立ち向かっていく男たちのドラマとして秀逸。

クレジット上の主役は浅野忠信なんだろうが,これ,実際は香川照之の映画だよ。連載エッセイでは愚痴,ぼやきの連続だったが,なんだかんだ言って出来たものを見ると,一番報われてると思いますよ,香川さん。

2 本目の「鳥刺し」は,新鮮なとこをわさび醤油でいただくと美味いやつじゃない。藤沢周平原作の海坂藩もの時代劇。藤沢の海坂藩ものというと,近年では一連の山田洋次監督作が思い浮かぶが,作風は全く違う。山田作品は,武家社会を背景にヒューマニズムあふれる人間ドラマという印象が強いが,本作は,かなり硬派な時代劇。主人公・兼見三左エ門は,藩主の妾・連子を城中で衆目の中,刺殺する。決死の覚悟の上の行為だったが,なぜか彼には寛大な処分がくだされ,斬首を免れる。なぜ,彼は連子を殺したのか?なぜ,死を免れたのか?タイトルの「鳥刺し」とは何か?観客にとっては,その辺りを探るミステリーとしての楽しみもある。

ところが,そう見えて,この作品は,実に古典的で,かつ丁寧に作られた本格派時代劇。武士や武家の女性のしぐさ,身のこなし,衣擦れの音にもこだわりが見られる。ストーリーは静謐なタッチで進みながら,さまざまな伏線を経てクライマックスへとなだれ込んでいく。この辺りも,奇をてらわないオーソドックスなスタイルだけれども,ぐいぐい引き込まれていく。そして,何と言ってもラスト 15 分のチャンバラシーン。リアルな立ち回り,刀の音,刀の向き(!),過剰なまでに飛び散る血しぶき。刀を握る手の震え,汗と血の匂い,痛さ,恐怖,そんなものが見ているこちらにまで伝わってくるような迫力。さすがに観客からも声が漏れてた。時代劇を観たことがない人でも,このシーンを見たら,虜になるかもしれない。

主演の豊川悦司,それを支える池脇千鶴もさることながら,久々に見た吉川晃司がなかなか良かった。一方,映画にいい味を加えた小日向文世が途中から忘れられキャラになってしまったのはご愛嬌?

外国人には理解できないかもしれない部分もなくはないけれど,これだけ本格的な日本映画が作られたこと,それをスクリーンで観られたことを,素直に喜び,感謝したい。そして,この 2 作が共に東映の作品であったことも最後にリマークしておきたい。経営的には決して安泰とは言えないはずだが,往年の東映作品の力強さが蘇ったように思え,嬉しい。こういう骨太な作品を今後も作り続けて欲しいと思う。

2010年12月4日土曜日

平均 0,分散大

日本映画祭で 2 本の映画を観た。

まず,昼の回は「フラワーズ」。正直言って,

何じゃ,これ?

って感じ。6 人の女優が 3 世代にわたる一家の女性たちを演じ,彼女たちが命をつないでいく姿を描いた作品。設定としては大河ドラマっぽいが,大河としてのうねりは皆無。では,6 人の女優の魅力を十分に映し出しているかというとこれも不十分。ストーリーなんてどうでもいいから,6 人を魅力的に映すことに専念した方がナンボかマシだったかもしれない。セリフも演技も平板。さらには,少子化の時代とは言え,産めよ育てよ的な話の流れが古臭い上に,押し付けがましい。ハッキリ言って,主演の 6 人がかわいそうである。蒼井優なんて,「おとうと」の時とはまるで別人のように輝きを失っていた。大河ドラマならミニシリーズ化してもいいくらいの題材だと思うが,1 時間 50 分でも長く感じた。こんなの 30 分で十分。

一方,夜は,気を取り直して,今回の映画祭で恐らく一番前評判の高い,中島哲也監督「告白」

いやぁ,これは期待を裏切らない傑作だったね。娘を失くした女性教師が教室で驚くべき告白を始める。松たか子演じるこの教師の告白は冒頭 30 分近く続いて,一旦,終わる。その後,生徒や親の告白を伏線として張り巡らしながら,物語は結末へ向かって大きくうねり出す。そして,ラストも,この教師の驚くべき告白で,まさに驚くべき終焉を迎える。

原作は読んでない。原作の力もあるのかもしれないが,そこは中島監督,相当捻りを利かせているに違いない。そもそも,モノローグで紡がれる物語なんて,映画的にはあまり魅力的ではないはずなんだが,映像の力でぐいぐい引き込まれていった。各エピソード(各告白と言うべきか)のつなぎも絶妙。計算されつくした脚本と演出,それに応えた演技陣。特に松たか子は怖い。それに音楽もいい。これまでもさまざまな手で我々を驚かせてくれた中島監督だが,総合芸術としての映画の醍醐味を,しかもこんな恐ろしい物語で見せてくれた。拍手喝采

しかし,この物語には,コミュニケーション,理解,信頼,想像力などの欠如,喪失が通奏低音として流れている。こりゃ,僕のような職業の人間には,リアルなホラーだよ。あー,怖い。

ここまで衝撃的で練り上げられた日本映画を久々に見たような気がするが…しかし,この後味…アカデミー外国語映画賞は…どうだろうね?

リメイクの噂もあるようだが…アメリカ人には…無理じゃないかねぇ?

2010年12月3日金曜日

衝撃の事実

いやぁ,衝撃の事実が明らかになった。NASA の記者会見が肩すかしだったもんだから,なおさらね。

今,僕の住んでいるアパートは,学生寮の敷地内にあるビジター用のアパート。部屋にキッチンもあるが,基本的に食事は寮の食堂でとれる。ただ,もう寮には学生たちもほとんどいないし,ビジターもさすがにクリスマス休暇にはそれぞれ国や家に帰る。ここで年を越すのは,僕と,もう一人の日本人ビジター松元先生のご一家くらいだろう。

で,ここんとこ,

我々のためだけにここのスタッフ働かすのは申し訳ないねぇ。

だとか

我々の飯だけ作りに毎日来るのかねぇ。

だとか,話していた。

そうしたら,アパートのビジター対応の Maree さんと別件でメールのやり取りをしてたら,その中でこんな話が…

I'm not sure if I have mentioned this before, 
but the college kitchen will be closed 
from dinner on 24 Dec and will reopen 
for breakfast on the 4 January.

おいおい,聞いてないよ。食堂閉まるのかよ。そういうことはもっと早く言ってくれよ。

部屋にキッチンはあると言っても,ちっこいシンクと冷蔵庫と電子レンジだけ。冷食あっためるくらいはできるけどねぇ。

コンロのついたキッチンのある広めの部屋もあるので,現在,その部屋に今と同じか,もう少し安い値段でその期間だけ移れないか交渉中。理由は知らないけど,前に同じレートで移ったことがあるので,今回も行けるんじゃないかと淡い期待を抱いている。

今日返事は来なかったので,多分,月曜日にならないと結果はわからない。

ったく,何抜かす!?

とか思われてたりして :-P

この結末は,月曜以降,ご覧のページで報告します。

Stay Tuned !!

2010年12月2日木曜日

原点回帰?

今日からメルボルンで始まった第 14 回日本映画祭。オープニング作品の山田洋次監督「おとうと」を観てきた。

この作品は市川崑監督作品「おとうと」(1960 年) に捧げられているが,リメイクではない。物語の根幹の部分は似てはいて,不肖の弟を持つ姉の話。市川版では,結婚するのは岸恵子演じる姉自身だが,今回の山田版では姉の娘(演じるは蒼井優)に置き換えられていたりする。設定も大幅に違うため,完全な山田洋次オリジナル版と言える。

山田洋次は僕にとって特別好きな映画監督ではないけれども,なんだかんだ言って結構見ている(正直に告白するが,寅さんシリーズはあんまり見てない…)。ただ,いつも思うことを今回も思ってしまった気がする。いい映画だ。いい作品だし,十分に人に薦められる作品だと思う。だけど,個人的には何か物足りない感が残る。何だろう,この「ほんのちょっとの不足感」。

50 年前の市川版「おとうと」ではこんな不足感は味わっていないのだ。設定が大きく違うだけじゃなく,ビジュアル的にも市川版と山田版では大きな隔たりがある。僕が市川崑作品に共通する,いわば「シャープな映像感覚」をこの上なく好んでいることも少なからず影響しているのかもしれないけれど。

山田洋次監督は松竹大船撮影所で長い経験を積んでいるが,今回の作品はモロ松竹大船調。これまでの山田作品でも,もちろん大船の匂いを感じることは少なくないのだが,今回は,カメラワークといい,役者の演技といい,「大船調」というよりも,何というか,「小津感」とでもいうものがスクリーンを支配しているような気がした。設定は現代だし,山田流の毒も若干ながら含まれているような気がするけれど,ちょっとノスタルジックに流れたきらいがないだろうか?途中から蒼井優が原節子に見えてきたもん。僕だって小津の作品は好きでほとんど見ているけれども,今,山田洋次がそこに回帰することの意味は何なのか?特に今回は,その辺が,僕の感じた「不足感」につながっているような気がしないでもない。

吉永小百合,鶴瓶におなじみの笹野高史など役者も揃っているし,見応えのある作品だとは思う。いい作品だけど…って感じだね。

あ,あと,加瀬亮君には,こういう路線に留まらず,もっと冒険して欲しいという気もするね。いい役者なんだから。

映画の後は一杯。今日は,会場の ACMI と同じ Federation Square にある Beer Deluxe で Brew Dog というスコットランドのブルワリーの Hardcore IPA というのを試した。


スタイルとしては,ハーブのような華やかなホップの香りと苦みに特徴のあるアメリカン IPA だとは思うが,アルコール度数も高く,香りもフレーバーも,どちらかというとベルジャン・トリペルを想起させる。日本人的には,赤ミソや醤油を思わせるアロマも感じる。苦味は強烈で,カラメルのような甘みもある。確かに言われてみればハードコアってのもうなづける。これはビールというよりもブランデーみたいな感覚で,30 分くらいかけてじっくりと味わうのに適したビール。実際,僕も気がついたらチビチビと 30 分以上経ってました。

ビールの方は映画と違って挑戦的だったね。…最近こんな感想が多いな。

2010年12月1日水曜日

隠すということ

隠すということは教育ではない。

そもそも隠そうとしても隠しきれるわけがない。

何かを隠すことで人を教え導くことができると考えている人がいるとしたら,それは,地球が平らな円盤でできており,縁は滝になっていると真顔で説くことと何ら変わりはないのではないだろうか。

今日は何の話かというと,東京都の青少年健全育成条例改定について。

「NO」と言える男がまたしても「NO」と言ってしまったことに対し,さまざまな反対声明が出されていることは,各種報道で皆さんご存知の通り。マンガ家ペンクラブによる反対声明に加え,日本共産党の都議団も公に反対の見解を発表している。規制が検討されている具体的な表現内容についても,条文の検討,批判がなされている。

この辺りは,素人の出る幕ではないと思うし,既に数多く展開されている議論をなぞっても仕方がないので,自分の守備範囲で自分なりの見解を述べたい。

誤解を生まないために,まずは自分自身の立ち位置を明確にしよう。この条例改定案には絶対反対。ただ,すべてのものを無規制で垂れ流して良いと言っているわけではない。業界による自主規制や第三者によるレーティングまでは妨げない。自主規制やレーティングも基準があいまいだから反対という人もいるだろうし,自主規制という旗印の下に,無害であったはずの作品が闇に葬り去られてきた歴史も確かにある[1] が,僕はその存在そのものを否定するつもりはない。仮に自主規制やレーティングが「悪」であったとしても,それは「必要悪」だろうというのが僕の考え方だ。

例えば,我が国の映画の場合,業界団体ではなく,第三者委員会である映倫(映画倫理委員会)が審査を行ない,G, PG12, R15+, R18+ の 4 区分にレーティングしており,映倫の審査が終了しない限り,全興連(全国興行生活衛生同業組合連合会)加盟の劇場では上映できない[2]

さて,このような業界やサードパーティによる規制ならまだしも,行政や自治体が規制に乗り出すことにはやはり違和感がある。事実,日活の「太陽の季節」[3]が,当時の文部省が規制法案策定へ動き出す一因となり,それを阻止するために映倫が組織されたことを思うと,今,都議会で起こっていることが何とも皮肉に思えてならない。

現在,提案されている条例案は,特定の表現への規制にも言及しているようだが,そもそも憲法の規定の下に「表現」が「自由」である以上,コンテンツの性質によりいかなる規制をかけようとも,その裏をかくような「表現」がクリエイターにより創出されて,いわゆる「イタチごっこ」が繰り広げられることは想像に難くない(注)。その結果,規制の範囲はどんどん広がって,本来保証されるはずの自由が奪われていくことにつながりかねない。そういう意味で,表現されるものの性質により法的規制を加えることにはそもそも無理がある

彼らからしてみれば,法や条例で規制するのはもっとも簡単で,かつ,一見,有効に見えるのかもしれない。しかし,その裏で,これはもっと大きな問題を孕んでいる。

例えば,子供たちが,規制されているものを一切見ることも聞くこともできないとすれば,どのようなものがなぜ規制されるのか,その理由や背景について考え,議論し,教え説く機会が奪われかねない。このことは,単に教師や親が,これらの問題を議論の俎上に挙げる機会を削ぐだけでなく,ひいては,隠ぺいによる教育の硬直化をも引き起こしかねない。中世から現代に至るまで,同様の問題で人類は多くの悲劇を経験してきたではないか!

本来,見聞きすること自体が問題ではないはずで,程度の差こそあれ,見せた上で,それをどう捉えるか,問題だとすれば何が良くて何が悪いのか,そこで議論が生まれるべきである。そこに教育が入り込む余地がある,いや,入り込むべきなのだと僕は思う。ネットや携帯の問題にしても同様だが,何を見せて,そこで何を子供たちに教え,伝えていくのか,その選択権が教師や親による教育の現場にあってしかるべきだ。もちろん,それが容易ではないことは理解しているつもりだが,これは親や教師に与えられたある種の使命であって,我々が果たさなければならない責任なのだろうと思うのだ。

今回の条例改定は,そのような教育の機会を奪う危険性を大いに孕んでいる上に,教育の冒涜にも他ならないことを,ここで声を大にして訴えたい。

あるいは,彼(ら)は,「教師や親はそのような教育を行なう必要は一切ない,すべては行政が解決するのだ」とでもいう時代錯誤も甚だしい,のぼせ上った考えを抱いていたりするのだろうか?

今回の一連の騒動を見ていると,前世紀初頭に小説「われら」[4]でザミャーチンが痛快なまでに批判した,かつての大国の姿が都の姿に重なって見えるようだ。

もし,この条例が可決され,このような規制の下で育った子供が教育者や親になったとき,どんな社会がやってくるのか,想像すると少し怖い。仮に,そんな恐るべき未来を小説のような形で表現したとしたら,この条例によって,ザミャーチンのように規制や弾圧を受けることになるのだろうか?


《参考文献》
[1] 森達也(著), 放送禁止歌,  知恵の森文庫 (2003).
[2] キネマ旬報映画総合研究所(編),映画検定公式テキストブック, P.204, キネマ旬報社 (2006).
[3] 古川卓巳(監督), 石原慎太郎(原作), 太陽の季節, 日活 (1956).
[4] ザミャーチン(著), 川端香男里(訳), われら, 岩波文庫 (1992).


(注) この辺りは酒税を巡る第三のビール問題とも関連する。この意味で僕は日本のビール業界の努力を極めて高く評価する。

追記:
今,僕の住むオーストラリアにも,もちろん,レーティングはあるが,実はこちらは政府主導の機関が審査していて,区分も E, G, PG, M, MA15+, R18+, X18+ と日本よりも細かい上,テレビ番組や CM も対象で,印象としては基準も日本よりキツイ感がある。ただ,日本では恐らく見られないだろう映像をこの国で見ることは可能だし,E から M まではテレビでの放映も可能だったり,運用面では,若干のユルさがあるのもお国柄かもしれない。あくまでも,僕の個人的な憶測にすぎないけれども…

2010年11月30日火曜日

タダ働き

僕の取得した 419 ビザは,客員研究員ビザ (Visiting Academics Visa) というもので,大学等で共同研究をするためのもの。ただし,条件として,訪問先の大学等からは一切報酬を得てはいけないことになっている。

Udaya さんの暗号の授業で 1 回だけゲストスピーカーとして話をさせてもらった。まぁ,これは授業というより講演って感じだった。で,この授業,修士の学生が対象なんだが,週に 3 コマあって,2 コマは通常の座学の授業。残りの 1 コマが演習で,学生は授業の内容に基づいた演習や調査,研究を行ない,期末にレポートとしてまとめて提出する。テーマは各学生が授業で学んだトピックスから自由に選ぶことができるんだが,僕が話した回(ステガノグラフィ)に関するテーマを選んだ学生が 2 人いたらしい。

ということで,昨日,この 2 人のレポートの採点を頼まれた…うーん,これってタダ働きだよなぁ。

まぁ,でも,海外の大学で学生の成績つけるなんてのも,経験かな?と思ってポジティブに考えて,目を通したんだが,評価が結構めんどうくさい。評価項目が細かく分かれていて,全部は覚えてないので書けないけれども,たとえば,レポート全体の構成力 (organization) だったり,議論の一貫性 (consistency) だったり,参考文献の適切性だったり,と,ジャーナルの論文査読に似た感じ。それをそれぞれ 10 点満点で付けて,トータルで評価するということ。ちなみに,この演習の成績は,レポートが 80% で,それに先立つプレゼンが 20% ということだ。

日本でも成績基準を含めたシラバスを公開して,学生に十分説明する,ってのが今や普通になっているけど,ここも同じ。というか,学科としてある程度統一した基準を持っているみたいだから,日本よりも厳格な気がする。

とにもかくにも,一応採点結果は渡してきた。ただ,この 2 人以外の学生のレポートやそのレベルがわからないので,どういう基準でそういう点数をつけたか,ってことを説明するのがとても面倒だった。自分一人で全部見れば,ある程度一貫性のある採点ができると思うんだけどさ。もちろん,全員分なんて見る気はさらさらないわけだけどね。というわけで,Udaya さんには,僕なりの基準を説明して,後は他とのバランスを取ってね,つって,お任せしてきました。

…なんかちょっとウチの専攻科生の成績を付けてるような錯覚に陥った…

明日からまた頭を切り替えよう。

2010年11月29日月曜日

タイトルは,一応,今日の日本時間午後 3 時くらいの僕のツイートと連動しております。

さて,来年のことを言うと鬼が笑うと日本ではいうようだが,オーストラリアでは何に笑われるんだろうか?

で,今日は来年の話。

毎年,この時期になると,ウチの学校では,来年,誰彼が何委員をやるとか,お忙しいところ申し訳ありませんが,お引き受け願えませんか?とか,すみません,来年はこれこれをやることになっておりますので,再考願えませんでしょうか?とか,ったく,しょーがねーな,とか,そういうメールが飛び交う(「しょーがねーな」は多分飛び交いはしないけど…)。

僕も来年の 4 月から学校に戻ると,当然何らかの校務に就くことは明らかなわけで,そろそろそんな話題が出るんじゃないかと,ひそかに戦々恐々としていた。

そしたら来ましたがな。「○○をお願いします」と…

今年 1 年間は授業も校務も放棄しているので,日本に帰ったらみんなが手ぐすね引いて待っているってことは,日本を出る前から脅されていたし,何かが来ることは確実なわけで,覚悟もしていたはず。

でも,何が来たかに関係なく,やっぱりこういう連絡が来ると,ちょっとブルーになるよね。少なくとも一瞬ね。まぁ,日本にいたって同じようにブルーになるわけだけどね。「あぁ,俺んとこにもとうとう来たかぁ」なんつってね。

まぁ,でも仕方がないので,気持ちを切り替えて,このメールは読まなかったことにして,残りの 4 ヶ月をエンジョイしたいと思いますよ。そーでないとね。

そういえば,信州松代では,明日から SITA2010 ですねぇ。僕も学生の時以来 14 年間ずっと出ていたけど,今年は欠席。実は,こっちの方もお仕事をお断りしちゃったのよね。すいませんねぇ。まさか,来年誰かが手ぐすね引いて待ってるなんてことは…ありませんよね ?? ね ??

桑原桑原…桑原桑原…桑原桑原…桑原桑原…

2010年11月28日日曜日

酒と映画の日

今日も朝からどんよりした天気。ただ,今日は午後から映画を見に行く予定だったので,天気はあまり関係ない,と言えばない。

というわけで,ACMI で行なわれているユダヤ映画祭で "Protektor" という映画を観てきた。ユダヤ人の女優が主人公。映画で成功を収めるが,ナチが侵攻を始めて…というストーリー。もうちょっとヒリヒリするような緊張感があるのかと思ったが,ちょっと思ったほどではなかった。悪い出来ではなかったけれど,僕の期待値と乖離してたってことかな? 一応,アカデミー賞の外国語映画賞エントリー作品ではあるらしいけれど。

ちょっと映画の方が残念だったので…(ので,というわけでもないんだけど) ACMI の筋向いにある Young & Jackson でビールを呑んで帰ることにした。いつもは 1 階のパブで立ち呑みするんだが,今日は初めて 2 階の Chloe's Bar に上がってみた。ここは Micro Brewer's Showcase というのをやっていて,オーストラリアのいろいろな地ビールを期間限定で提供してくれている。今は Matilda Bay のビールが来ていた。Matilda のビールは Fat Yak とか Alpha Pale Ale なんかが他のパブでも呑めて,ヴィクトリアの地ビールの中でも比較的メジャー。僕も Alpha は結構好き。今日は,今まで呑んだことがなかった Dogbolter というダークラガーが来ていた。


香りはビターチョコのよう。エスプレッソのような強い苦みと,タンニンのような渋みを感じる。苦味の奥にはほのかに酸味と甘みも感じるけれど,苦味ほどには主張せず,程よい感じ。70% カカオくらいのチョコみたいな味わいでなかなかグッド。映画は少し不満だったが酒には不満なし。

ちなみにこのバーには,昔のフリンダースストリート駅の写真なんかも飾られていてなかなか良い。当たり前だが建物は変わらないね。