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2011年3月12日土曜日

May the Force Be with You

日本の状況も気になるところではあるのだが,今夜はメルボルンのタウンホールに MSO (Melbourne Symphony Orchestra) のコンサートを聴きに行った。その名も

STAR WARS and Beyond

題名から予想される通り,作曲家 John Williams の映画音楽を演奏するというもの。

いるんじゃないかと思っていたら,やっぱ,いたいた。


ちなみに,会場内でも…


この人達,この恰好で普通に客を座席に誘導したりしてて,かなり可笑しかった…

指揮者は Anthony Inglis で,このオジサンのトークとコスプレが炸裂して,非常にエンターテインメント性の高いコンサートだった。まぁ,普通,指揮者はコスプレしないと思うが…

たとえば,「スーパーマン」では,ワイシャツの下に "S" マークの青 T シャツを隠し着ていたり,スターウォーズのレイアのテーマでは,レイア姫のヅラかぶったり…などなど。帝国軍のマーチのときには,ベーダー卿もご登場。ちょっと,呼吸音が耳ざわりだったけれども。

曲はおなじみのものが多いが,映画のタイトルからどんな曲だかイメージできなくても,曲が流れると「あ,これか!」と思えてしまうから,侮れない。

しかし,日本のことも頭の片隅で気になっているので,「シンドラーのリスト」は鎮魂歌のように聞こえて泣きそうになったし,ラスト,スターウォーズのフィナーレは,被災地の復興へ向けての応援歌のようにも思えた。

遠く祖国を離れていると,家族や友人に言葉をかけたり,海外で報道されている内容を知らせてあげることくらいしかできない。なんとももどかしい気分になる。こんなことしか,言えませんが…

フォースのともにあらんことを…

ホント,気が利かなくてスイマセン。

《演奏曲目》
  1. Olympic Fanfare and Theme
  2. Jaws: The Shark Theme
  3. Lost in Space
  4. Jurassic Park: Theme
  5. Memoirs of a Geisha: Sayuri's Theme
  6. JFK: Theme
  7. Harry Potter and the Philosopher's Stone: Hedwig's Theme
  8. Far and Away: Suite
  9. Catch Me If You Can: Closing In
  10. Superman: March

    - Interval -

  11. Raiders of the Lost Ark: March
  12. Close Encounter of the Third Kind: Excerpts
  13. Schindler's List: Main Theme
  14. The Phantom Menace: Suite
  15. Star Wars: Suite
    Princess Leia's Theme
    Imperial March
    Yoda's Theme
    Throne Room and Finale

    - Encore -

  16. E. T. : Bike Ride and Chase

2011年3月6日日曜日

世界で見る日本Part2

さて,今日も昨日に続いて 2 つのイベントをハシゴ。両方とも,メルボルンにいながらにして,日本のことを考えさせられるイベントだった。一つは僕の故郷の北海道,もう一つは住んでいる東京のことを。

まずは,メルボルン博物館へ。ここは去年行なわれた特別展「タイタニック展」を見に来たことはあるが.常設展は見てなかった。でも今日の目的は違う。午後 3 時から,アイヌ民族のパフォーマンスがあるというのである。しかも今回オーストラリアを訪問したのは,有名なエカシ(長老)である浦川治造さんを含む御一行。日本でもなかなか見られないものをこんなところで目にする機会に恵まれた。公演では,一時間以上にわたって,ムックリやトンコリなどの演奏,カムイユカラの披露,最後は会場の全員が参加しての踊りと内容も充実していた。


オーストラリア人はあまりアイヌのことを知らない(少なくとも僕の横にいた女性には僕がいろいろ説明した)ようなので,興味深いようだった。それに,アイヌとアボリジニの間には共通点も多く,日豪の先住民族として,文化交流を行なうことにも深い意義はあるだろう。

パフォーマンスを表面的に観ただけでは,アイヌの何たるか,アボリジニとどう類似していて,どこが違っているか,などはわからないと思う。ただ,今日は公演の後にドキュメンタリー映画「TOKYO アイヌ」が上映されたということなので,それを見ると,おぼろげに何かが伝わったのかもしれない。

しかし,同じように文字を持たない民族であるアイヌとアボリジニであるが,これらの民族を先住民族と認める動きはオーストラリアに比べて日本が圧倒的に遅れているように思える。歴史的には白人がオーストラリアを発見し,アボリジニを発見するより,和人がアイヌを発見した方が遥かに古いにも関わらずだ。

さて,上のドキュメンタリー映画,僕は都合により見ることができなかった。というのは,今夜はもう一つ重要な映像作品を見ることになっていたから。その映画とは,2006 年のイラン映画,ジャファール・パナヒ監督作品

『オフサイド・ガールズ』(Offside)

邦題はちょっとアレなんだが,素晴らしい作品だった。日本でも 2007 年に公開されているので観た方も多いだろう。2006 年ドイツワールドカップのアジア最終予選,イラン対バーレーンの試合が行われているテヘランのアザディ・スタジアムが舞台。スタジアムは女人禁制であるイランで,サッカー狂の女の子たちがあの手この手でスタジアムに潜り込もうとする。男装をした彼女たちが警備員につかまったり脱走したり,のドタバタを描いたコメディだが,一方でイスラムの戒律の中で女性が抱える問題を鋭く描き出した社会派の傑作である。

映画の中では,「日本人の女の子はスタジアムで試合を見られるのに」とか「私の友達が日本対イラン戦で死んだ 7 人のうちの一人だった」というようなセリフが出てくる。日本対イラン戦の試合後,興奮したイラン人サポーターが出口に押しかけ多くの死傷者が出たのだ(この事件については,こちらが詳しい。)。ちなみに,ジーコジャパンはテヘランで行なわれたアウェーのイラン戦は 2-1 で負けている。一方,この映画の舞台となったバーレーン戦でイランは勝利を挙げ,最終戦,横浜での日本との直接対決を待たずに,日本とともにワールドカップ出場を決めている。映画では,イラン代表のマハダビキアやアリ・ダエイ,カリミ,ハシェミアンらの名前も出てきて,アジアのサッカーを知る者はより楽しめる。

おっと,話がそれた。

で,この映画の監督,ジャファール・パナヒ氏の名前に見覚えのある方も多いだろう。昨年の暮れ,反体制的なプロパガンダを行なったとして,懲役 6 年,加えて 20 年間,映画製作,脚本執筆はおろか,海外への渡航,国内外のメディアのインタビューに応じることまで禁じるという判決を受けたことが報じられた。50 代の監督にとっては死刑にも等しい判決だ。彼がしたことは単に「劇映画」を撮っただけなんだが。今年のベルリン国際映画祭では,彼の解放を求めることを目的として,彼は審査委員の一人として招待されたことも記憶に新しい。今回のメルボルンでの上映も,彼の拘束に抗議する行動の一つというわけである。

しかし,日本でも,イランほどではないものの,表現を規制する不穏な動きがあることは何とも気持ちが悪い。東京都議会で可決された法案は表現そのものを規制するものではないとは言え,この波が日本国内に拡散し,拡大解釈されることで,どのような恐ろしい未来が待っているのか,ちょっと想像したくない。その意味でも,この春の都知事選は重要である。選ぶのは我々だ。心してかかれ。

2011年3月5日土曜日

世界で見る日本Part1

今日の行動は 2 部構成。まず昼間は,前から行こうと思っていた MCG (Melbourne Cricket Ground) のスタジアムツアーに参加。



ここはメルボルンオリンピックのメインスタジアムであったわけだが,今は,夏はクリケット,冬は footy のスタジアムとしてフル回転している。スタジアム内ではメンバー限定のエリアに入ることもできたり,経験豊かなガイドが粋なジョーク交じりに説明してくれてなかなか楽しかった。

地下は国立スポーツ博物館になっていて,ここも見学。オーストラリアのスポーツ,特にフットボールとクリケットの歴史に加え,MCG の歴史,オリンピックや競馬などに関する展示の他,各種のスポーツを実体験できるエリアもあってなかなか面白かった。オリンピックの歴史に関する展示では,1940 年に予定されていた東京の夏季五輪と札幌の冬季五輪が日本軍の満州侵攻のためにキャンセルされたこと,そしてそれぞれ 1964 年と 1972 年に復活開催されたことも説明されていた。

一方,夜は ACMI で溝口健二監督の『瀧の白糸』を弁士の説明つき(もちろん日本語)で観た。日本でもなかなか観る機会がないので,少なくとも僕にとってはビッグチャンスだった。今日の弁士は片岡一郎さん。映画はもちろん,オーストラリア人も多く見に来ているわけで,映像に英語字幕,それに弁士による日本語の説明がつけられるという趣向。これがなかなか面白かった。上映前に片岡氏本人からも言及があったが,映像についている日本語字幕は片岡氏の師である澤登翠さんの台本を英訳したものということ。今日の弁士の片岡氏は自身の台本でやるということで,これが微妙に違っていて面白い。字幕が出ているところで弁士はだんまり,一方,字幕にはないことを弁士がいろいろと喋る,などなど。サイレント映画を活弁付きで観る醍醐味だ。弁士自身による演出で,雰囲気も少し変わって見える。

しかし,日本で活弁付きで観ることができても,英語字幕はないわけだ。今日は,字幕を眺めながら日本語を聴いていたもので,2 人の弁士の話を同時に聞いているような妙な錯覚を覚えながら観ることができた。これぞ,海外ならでは。師弟関係にある弁士二人の勘所の違いも少しわかって,会場にいた日本人は,オージーよりも豊かな映像体験ができたと思う。

片岡さん,ありがとうございました。大いに楽しみましたよ。

さて,実は明日も,ここメルボルンで「日本」を観る予定…いや,「日本を」と言うべきではないのかもしれないけど…詳しくはまた明日。

2011年3月2日水曜日

ワーグナーとオレ?

歌劇王ワーグナーの最後の妻の名はコジマという。


うん,そんなことはどうでもいいんだな。

今夜はいつもの Cinema Nova でドキュメンタリー映画 "Wagner and Me" の試写を観てきた。なかなか面白かった。この作品,ワーグナー自身が晩年に建立したバイロイト祝祭劇場で行なわれる音楽祭の舞台裏などを紹介しながら,ワーグナーの音楽と足跡をたどるというもの。

案内人は,この 1 月にとある問題で日本ではたいそうヒンシュクを買ったイギリスのエンターテイナー(と呼ぶのがいいのかどうか微妙だが…),スティーブン・フライ。

さて,テレビの司会者が音楽家の一生を追っただけなら,番組改編期に民放で放映される 2 時間バラエティみたいに聞こえるかもしれないが,この作品を複雑で奥行きのあるものにしているのは,ワーグナー一族とナチスとの関係である。しかも,スティーブン・フライ自身がユダヤ系で,親類をホロコーストで亡くしている。このことがまさに,タイトルの "Wagner and Me" につながっている。映画では,彼特有のウィットに富んだ会話でさまざまなインタビューなどを敢行していくが,ニュルンベルクで彼が見せた素の表情は,しばらく脳裏に残る。

ちなみに,ワーグナーが登場する映画としてはヴィスコンティの『ルートウィヒ/神々の黄昏』(1972)が有名。それ以外には,あまりデキは良くないけど,『ワーグナーとコジマ』(1988)という作品もある。興味を持った向きは探し出して観てみるとよい。

繰り返すようだが…

オレはワーグナーとは何の関係もないからね。


2011年2月28日月曜日

Goes to...

米アカデミー賞授賞式を生中継で観た。

まぁ,ほぼ下馬評通りという感じだったが,一応,主要 6 賞についてボクの予想と結果をまとめると以下のような感じ。



予想結果
作品賞 英国王のスピーチ 英国王のスピーチ○
監督賞 デイヴィッド・フィンチャー
(ソーシャル・ネットワーク)
トム・フーパー
(英国王のスピーチ)
×
主演男優賞 コリン・ファース
(英国王のスピーチ)
コリン・ファース
(英国王のスピーチ)
○
主演女優賞 ナタリー・ポートマン
(ブラック・スワン)
ナタリー・ポートマン
(ブラック・スワン)
○
助演男優賞 クリスチャン・ベイル
(ザ・ファイター)
クリスチャン・ベイル
(ザ・ファイター)
○
助演女優賞 メリッサ・レオ
(ザ・ファイター)
メリッサ・レオ
(ザ・ファイター)
○

というわけで,監督賞のみ外してしまった。監督賞は,デイヴィッド・フィンチャーか,『ブラック・スワン』のダーレン・アロノフスキーあたりに行くんじゃないかと思ってたんだけど,結果は主要どころを『英国王のスピーチ』が持って行ったということか。

ただ,『英国王のスピーチ』も 12 部門のノミネートで受賞は 4 賞のみ,上の 3 賞に加えてオリジナル脚本賞を獲ったのみだったので,序盤はどうなることやらと思ってしまった。

個人的には,イチ押しの『ザ・ファイター』が助演賞 2 つを獲ったことは素直に喜びたい。しかし,これら 2 賞にはジェフリー・ラッシュとジャッキー・ウィーバーもノミネートされていて,彼らが受賞を逃したのは若干残念ではあるけれど。

残念だったのはコーエン兄弟の『トゥルー・グリット』。『英国王のスピーチ』に次ぐ 10 部門のノミネートを受けながら受賞はゼロ。彼らの作品としても地味めだったことが災いしたか。一方,効率的だったのは『インセプション』(8 部門中 4 部門受賞)。さもありなんとは思うが,技術賞関係をほとんど持ってった。

司会はアン・ハサウェイと『127 時間』で主演賞にもノミネートされてたジェームズ・フランコ。最初はどうなるかと思っていたが,可もなく不可もなくと言ったところか。途中,ボブ・ホープの映像を使ったところもあったけれど,やっぱりビリー・クリスタルあたりがやっていた頃の方がショーとしては面白かったような気がするなぁ。

あまりサプライズはなかったけれど,まぁまぁ楽しめた。

しかし,ジャッキー・ウィーバーが受賞を逃したことで,"Animal Kingdom" の日本リリースがさらに遠ざかったような気がする。どうなる??

2011年2月24日木曜日

オスカル!

タイトルから違うの予想した人がいるかもしれない。

さて,オーストラリアの東時間では来週月曜日の正午から行なわれる第83回アカデミー賞授賞式。日本では WOWOW あたりが独占生中継だと思うが,オーストラリアは地上波の無料局 Nine がロスから生中継。

作品賞候補 10 本のうち,日本ではこれから公開されるものも多いんだろうが,オーストラリアではすべて公開済みで,僕も 10 本中,7 本を観ている。観ていない 3 本は "Toy Story 3", "Kids Are Alright", "Winter's Bone" だが,トイストーリーはオッサン一人で観るもんじゃないし,残りの 2 本は何か肌に合わなそうだったので未見。

というわけで,残りの 7 本について,僕が好きな順に並べてみる。(ちなみに作品名のリンクをクリックすると僕のブログエントリに飛べます,飛べます。)
  1. ザ・ファイター
  2. ブラック・スワン
  3. 英国王のスピーチ
  4. トゥルー・グリット
  5. 127時間
  6. ソーシャル・ネットワーク
  7. インセプション
1位の『ザ・ファイター』はダントツ。2位の『ブラックスワン』と3位の『英国王のスピーチ』はその日の気分によって順序が変わるかも。4位以降もはっきりとした順番は付けづらい。別に「インセプション」が面白くなかったというわけではなく,本当に良作が多かったと思う。

いや,『ザ・ファイター』はブログでも書いたが,本当に面白かった。作品賞を獲ることは恐らくないと思うけど,スポーツ映画としても楽しめるし,実話とは思えないほど,エキセントリックで笑える。クリスチャン・ベイルの助演男優賞受賞は間違いない。

『ブラックスワン』は,ダーレン・アロノフスキーが自分の世界観を失わずに美しいサイコスリラーとしてまとめた感があるけれど,この手の作品が受賞するのは難しいと思う。

となると,下馬評通り,やっぱり『英国王のスピーチ』なのかねぇ。この作品はすごくいい作品だとは思うけれど,今ひとつ押しが弱い気もするのよね。まぁ,でも,このくらいが作品賞として収まりがいいのかもしれない。

『ソーシャル・ネットワーク』の評判も高いようだけれど,もし,受賞したとして,5 年くらい経ってから振り返った時に「なんであれが獲ったのかねぇ」なんて思うんじゃないかって気もする。

いずれにしても,今年はいい作品が揃って,なかなか面白くなりそうだ。

ちなみにオーストラリアでは,助演女優賞に "Animal Kingdom" のジャッキー・ウィーバーがノミネートされているんだが,本命のメリッサ・レオ(ザ・ファイター)にオッズで 40 倍近い差を付けられているとかで,ちょっと厳しそうだ。実は『ザ・ファイター』が一番面白かったと思う僕でも,演技という意味ではメリッサ・レオよりもジャッキー・ウィーバーの迫力の方が勝っていたと思うだけに,ダークホースの大逆転を期待したいけれど…

さてさて,どうなりますことやら。

追伸: しかし,"Animal Kingdom" が日本公開されそうな気配は全くないな。何度も書くようだが,こんな傑作が DVD スルーとはホントにもったいない!! 頼むから DVD くらいはリリースしてよ!!

2011年2月22日火曜日

The Four Times

変わった映画を見た。イタリア映画。ミケランジェロ・フランマルティーノ監督作品。
Le Quattro Volte

試写だったんだけど,会場の ACMI の学芸員から上映前に説明があった。セリフはほとんどない静かな映画なので,多少のイタリア語は聞こえるかもしれないが,字幕は付いていない…と。

うーん,退屈なんじゃないかねぇ。

ということで,ちょっと気合を入れてスクリーンと対峙。イタリアの山深い小さな村。山羊飼いの老人…確かに静かな映像が続く。しかし,不思議なことに何故か退屈しない。気が付くと,次に何が起こるんだろう,と頭をフル回転させながら観ている自分がいた。ちょうど,旅行で人里離れた村を訪れ,あっちに行ったら何があるだろう,とか考えながら歩いている感じ。そう,見ているうちにすっかりスクリーンの向こうの世界に入り込んでいた。

キャメラはこの街で起こる小さな事柄を基本,固定アングルで切り取っていく。こういう風に書くと,NHK 「おはよう日本」あたりの

今朝の水戸市の様子です

みたいな映像かと思われるかもしれないが,そうではない。僕の脳は時折,タイトルが何を意味するのかを考えながら映像を追いかけていた。英訳は "The Four Times"。4 つって何だ??

実は,この映画は素朴な自然と人間の交わりの様子を何気なく切り取っているように見えて,実は緻密に計算されていることに次第に気付く。ここに描かれているのは,人間,動物,植物,自然,大地,それらが織りなす命の連鎖だ。西洋に輪廻転生の思想があるのかどうかは僕は知らないし,僕自身はそういう宗教観とは無縁なので,宗教的に何を意味しているのかまで言うつもりはない。けれども,ここで描かれていることは人間の歴史でこれまで綿々と続けられてきた命の営みそのもの,そして,ここに映し出されている風景,人々の様子は過去のことではなく,現在も同じように続けられていること。そして,恐らくはこれから先も,この村では,このような自然と人間との共同作業が続けていくだろうことが暗示される。

映画はラスト,冒頭と同じような風景に回帰する。そのことがまさに,この映画のテーマそのものを,あまりにわかりやすいまでに体現していた。始まって 20 分くらいで僕の後ろにいた兄ちゃんが逃亡したが,最後まで見なくちゃぁ。最後に,なるほどね,と言って膝を打った。

僕自身も見ながらいろいろな思いを巡らせていたけれども,テーマは1本スジが通っているとしても,人によって,捉え方はいろいろだと思う。ただ,僕はやっぱり,人間がマクロな視点で観れば,自然界の部品の一つでしかないこと。そこにいる自分の存在がいかに小さいものであるのかということ,そういうことを実感した。いかに大都会で暮らしていようが,スノッブにわかったようなウンチクを並べていようが,人間も広い世界のほんの一部にすぎない。

Life is very short. 

そう,我々が過ごす時間は歴史の長さに比べれば冗談みたいに短い。自分の命が果てれば,また,いつか自分と似た人間がこの世で自分と同じようなゴタクを並べるかもしれない。そんなことを考えながら,帰りのトラムに乗った。

クイーンズランドでは今年ひどい洪水があったし,ニュージーランドではまさに今日,大きな地震が起こった。犠牲者も多かったようだ。こんなニュースも上のような僕の想いに拍車をかけた。

心が洗われる映像体験。
こういのもたまにはいい。

2011年2月21日月曜日

史上最痛

あの…マラソンとか箱根駅伝とか…テレビで良く中継ありますねぇ。あんな感じ? いや,駅伝は何人もでタスキつなぐから,やっぱマラソンだな。マラソン中継って,2 時間以上見ることわかってて,

2 時間って長いよね

って思っても見ちゃうよね? そそそ,そんな感じ。まぁ,個人差はあるだろうけど。

で,何の話かっていうと,今夜,月曜 Nova でダニー・ボイル監督の新作『127 時間』 (127 Hours) を見てきた。実話の映画化で,今年のアカデミー作品賞にもノミネートされている。

どんな話かっていうと,主人公アーロンは,一人でロッククライミングに行くが,その途中でアクシデントに逢い,岩に右腕が挟まって取れなくなってしまう。で,腕がとれるまでの時間が 127 時間っていう…

うーん,一言でいうと何か異様にあっさりしちゃうな…

でも,そんな生やさしい話じゃない。映画の冒頭,結構早いうちに腕は挟まってしまう。観客はタイトルから,とれるまで 127 時間かかることを知っている。ここがマラソン中継に似ている。マラソン中継なら,途中景色も変わるし,先頭の選手だけじゃなく,いろんな人の様子が映し出されるが,この映画は,腕が挟まってからとれるまで,主人公の夢や妄想を除けば,この兄ちゃん一人しか映らない。しかもこの兄ちゃん,もしものために家族にメッセージをってことで,ビデオカメラに自分の様子を記録する。ちょっと古いが,何か電波少年系の企画みたいだ。

いや,そんなに悠長なこと言ってる場合じゃない。127 時間て 5 日以上だよ。5 日以上,腕が岩に挟まって取れない。もちろん,血は通わない。水も食料も切れる。挟まって動けなくても,腹は減るし,喉は渇くし,出るものも出る。携帯も持って来ていなくて連絡手段もなければ,この兄ちゃん,誰にも行き先を言わずに来ている。もう究極のサバイバル。

ベア・グリルズも真っ青な状況だ。

マラソン中継にも同じような疑問を抱く向きもあるだろうが,こんなん,ずーっと見てて果たして面白いのか? というと,これが目を離せない。ここはダニー・ボイル,映像にも観客を飽きさせない工夫を凝らしているし,主人公が次第に追い込まれていく様を絶妙なペースで描き上げる。直球と変化球をバランスよく投げ分ける百戦錬磨のベテラン投手のようだ。

こういう密室の状況ってのは,ミステリーやコメディ,ホラーなど,映画やドラマでよく使われる典型的なパターンだ。しかし,作り話でこういう状況を思いつくかっていうとなかなか…

まさに,事実は小説より奇なり…

いや,それにしても,見てる方まで痛いし辛い。アクション映画でビックリして座席から飛び上がるってのはあるけれど,ジリジリ痛くて,座席で身をよじる経験ってなかなかない。

見終わった後,隣に座ってた女の子と思わず顔を見合わせてしまった。

"... It really hurts..."

"...Yeah, I know..."

いや,ホント。マラソン中継見ててもこんなに疲れないけど,これは疲れたわー。
けだし…傑作。

日本公開は 6 月だそうだ…覚悟して臨め。

2011年1月31日月曜日

Black Swan

月曜 Nova。今週は,先週,満員御礼で見られなかった,ナタリー・ポートマン主演の "Black Swan" を観てきた。

僕はどちらかというと役者ではなく,監督で映画を見る方なので,普通なら,ダーレン・アロノフスキーの "Black Swan" というところだが,この映画に関しては,ナタリー・ポートマンの映画と呼ぶにふさわしい熱演。もちろん,処女作の 『π』や『レクイエム・フォー・ドリーム』などで見せたアロノフスキーのタッチはこの映画でも見受けられはする。しかし,そこに乗っかりながらも,観る者を惹きつけるナタリー・ポートマンの演技は際立っている。

こないだ,スティングのライブで "Shape of My Heart" を聴いたから言うわけじゃないけど…大人になったねぇ(←何様だよ)。

この作品も今年のアカデミー作品賞にノミネートされている。可能性がありそうなのは,この作品の他,『ソーシャル・ネットワーク』『英国王のスピーチ』『ザ・ファイター』あたりだろうか。『ソーシャルネットワーク』の下馬評が高いようだが,他の 3 作品もなかなか良かったんで,甲乙つけがたい。この他,候補作で僕が見たのは『インセプション』だが,これはなさそうだ。あと,コーエン兄弟の最新作『トゥルー・グリット』も今週から始まったし,ダニー・ボイルの『127時間』ももうすぐ公開なので,ぜひ観ようと思っている。

ちなみに,下の写真は単なるイメージ。映画とは何の関係もない。

2011年1月24日月曜日

The Fighter

現在,オーストラリアは 1 月 25 日火曜日の午前 1 時を回ったところだが,月曜恒例,Cinema Nova で映画を観てきて,0:00 ちょい前に帰ってきた。冷静になるのに少し時間がかかったけれど,それくらい面白い映画に出会った。

月曜の Cinema Nova は 16:00 前の上映が 6 ドル,16:00 以降が 8 ドルという格安価格だったが,今日一ヶ月ぶりくらいに行ったら,16:00 以降が 9 ドルに値上げされてた。まぁ,通常が 17 ドル前後だからそれでも十分安いが…

まぁ,どうでもいい愚痴はおいといて…で,今日(もう昨日か),僕を興奮させた映画は "The Fighter" という作品,「ザ・ファイター」という邦題で 3 月に日本公開も決まっているらしい。


実在のボクサー,ミッキー・ウォードの半生を描いたボクシング映画。主役のミッキーにはマーク・ウォールバーグ,伝説のボクサーでありながらドラッグにおぼれるも彼のトレーナーとなる異父兄ディッキー・エクランドにクリスチャン・ベイル。半分ジャンキーみたいなこのハチャメチャ兄ちゃんがこの作品のいいとこをかなり持っていっている。クリスチャン・ベイルはこの作品で各映画賞の助演男優賞を受賞しているが,それも納得の力演。

この映画が他のスポーツものと一線を画しているのは,事実に基づくストーリーでありながら,良質のコメディにもなっているところだ。どこまでホントの話なのかわからないが,ミッキーの家族のハチャメチャぶりはかなり凄い。上述の兄ちゃんもそうだが,メリッサ・レオ演じる肝っ玉母ちゃんに,7 人もいる姉ちゃん連中、それにちょっと力の弱そうな父ちゃん。事実は小説より奇なりとはいうけれど,彼らが引き起こす騒動は落語よりも笑える。映画館で手を叩いて爆笑したなんて初めてかもしれない。

それでいて,映画のクライマックスはミッキーがロンドンで行なわれた WBU 世界戦で Shea Neary と対戦するところに置かれていて,この試合を含むラスト 30 ~ 40 分はスクリーンに釘づけになる迫力がある。これが全部実話だっていうんだから驚く。

ただ,先日発表されたゴールデン・グローブ賞を始め,アメリカの映画賞レースでは "The Social Network" の評判が異様に高い。どっちも見たけれど,僕はこっち ("The Fighter") の方が断然面白かったね。アカデミー賞でも,これら 2 作品に "The King's Speech","Black Swan" なんかが絡むと思うが,結果はどうなるかね。アレなのかね? 映画賞にも学閥みたいのがあって,こういう作品は不利だったりするのか?(実は今日は "Black Swan" を見ようと思ったんだが,チケット完売で見られなかった。来週の月曜に再チャレンジしよう。)

ゴールデン・グローブではクリスチャン・ベイルに加えて,助演女優賞もメリッサ・レオが持っていっているけど,こっちの方はどうだろうね。個人的には "Animal Kingdom" のジャッキー・ウィーバーの方が作品に与えた印象が強いと思うけどな。メリッサ・レオもクリスチャン・ベイルに押されてるだけかな? いずれにせよ,どちらもアウトロー的な一家の母ちゃんを演じていて,アカデミー賞でも二人の一騎打ちが楽しみだ。

うーん,冷静になってから描こうと思ったけど,興奮は覚めなかったな。

いや,とにかく必見の傑作。

2011年1月23日日曜日

ライフタイムベスト

今日は,メルボルン国際映画祭のメンバー向け試写会で,マイク・リー監督の "Another Year" を見てきた。地質学者とカウンセラーというあるひと組の夫婦を中心に,同僚,友人,家族とのエピソードを,ある 1 年を通して描いた作品。主人公のカップルはハッピーを絵に描いたような人物なんだが,この家を訪れる友人や親族がそれぞれいろいろな問題を抱えていて,そこからファニーでありながら,どこか物悲しい雰囲気が醸し出されてきたりする。

僕はどちらかというと監督で映画を選ぶ方なんだが,マイク・リーは比較的苦手なタイプ。「秘密と嘘」なんかも確かに良かったし,今日の Another Year も悪くないんだけれど,こういう何にも起こらない感じの話って,どうも苦手だ。いい映画であることは認めるし,見ながら笑ったり唸ったりするよ。でも,自分にとっての愛すべき作品,愛すべき監督と言えるかっていうと,ちょっと…って感じなんだよなぁ。

じゃ,どんなのが自分にとっての愛すべき作品かって話なんだが,これ,良く聞かれるんだけれど,なかなか答えるのが難しい。一応自分にとってのベストワンは決めた答えを用意してあるんだが,例えば 5 本とか 10 本挙げろと言われると,その時によって答がブレると思う。

ということで,ブレることを承知で日本映画と外国映画のマイ・ライフタイム・ベスト10を選んでみた。あえて一監督一作品にしてみた。順序も付けられないので,おおよそ発表年順にしてある。赤いものが,上に書いた「いつも答として決めているベストワン」で,カッコ内は監督名。


《日本映画》
  • 女の園(木下恵介)
  • 七人の侍(黒澤明)
  • 幕末太陽傳(川島雄三)
  • 黒い十人の女(市川崑)
  • ニッポン無責任時代(古澤憲吾)
  • 竜馬暗殺(黒木和雄)
  • 愛のコリーダ(大島渚)
  • 太陽を盗んだ男(長谷川和彦)
  • 二十世紀少年読本(林海象)
  • キッズ・リターン(北野武)

《外国映画》
  • サイコ(アルフレッド・ヒッチコック)
  • 穴(ジャック・ベッケル)
  • ガープの世界(ジョージ・ロイ・ヒル)
  • ダウン・バイ・ロー(ジム・ジャームッシュ)
  • レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ(アキ・カウリスマキ)
  • シザーハンズ(ティム・バートン)
  • ヨーロッパ(ラース・フォン・トリアー)
  • パルプ・フィクション(クエンティン・タランティーノ)
  • アンダーグラウンド(エミール・クストリッツァ)
  • ファーゴ(ジョエル・コーエン)

…というような感じなんだけれども,やっぱり絞るのは難しいな。日本映画では,泣く泣く小津,深作,岡本喜八,周防正行なんかを外したし,傑作とは言えないけれど,個人的に好きな吉田喜重版「嵐が丘」なんてのも除外した。

洋画の方はもっとシビアで,なんとチャップリンを外しているし,キューブリックやイーストウッド,アルトマン,ウディ・アレン,アンジェイ・ワイダなんかも入れたかった。作品ではペキンパーの「ワイルドバンチ」,それに「カッコーの巣の上で」,「ブルース・ブラザース」,「スモーク」なんかも迷ったところだったりする。

それに上のリストを見ると,この監督で何でこの作品なの? とか何でこんなんが入ってんの?? という作品があるだろう。特に日本映画。ただ,客観的批評に基づくわけじゃなく,あくまでも僕の主観,ボクとこれらの作品がどういう出会い方をしたのかってことで,自分にとってある種の事件性を持っていたものにプライオリティを与えたつもり。というわけで,かなりの異論は覚悟の上だったりする。

観たことない作品があれば,ぜひ観てみて欲しい。僕の気持ちがわかってもらえるかも。


追記:
「事件性」があるって意味で言うと,洋画では「ヘザース ベロニカの熱い日」って作品もぜひ紹介しておきたい。でも,なぜか未だに DVD 化されていない…なして ??

2010年12月28日火曜日

The King's Speech

昨日の昼間,Cinema Nova で映画を見てきた。トロント映画祭で観客賞を受賞した "The King's Speech"。実話の映画化で,主人公は現在のイギリス女王・エリザベス 2 世の父親に当たる国王ジョージ 6 世(当時ヨーク公)。ひどい吃音に悩まされていた彼と言語聴覚士であるライオネル・ローグとの交流を軸に,国王が吃音を克服して,歴史的な演説をするところまでを描く。出演はヨーク公にコリン・ファース,その妻エリザベス妃にヘレナ・ボナム=カーター,ライオネル・ローグにはオーストラリア出身のジェフリー・ラッシュ。ローグ自身もオーストラリア出身であったため,粋なキャスティング。

役者の好演もさることながら,セリフがウィットに富んでいて,実話の映画化としてはすごくスタイリッシュで楽しい映画に仕上がっている。クライマックスへの導き方も含めて,脚本の勝利といえるだろう。

メルボルンでは先週から封切られたばかりだし,オーストラリアにも縁のある物語であることもあり,かなりの大入り。こちらでは珍しく,上映前に並ばされた。

ところで,僕のとなりに座っていた老婦人と上映前少し話をした。以下,おばあさんが A,僕が B。

      A: 学生さん?
      B: いえ,働いてます。
      A: あら,ごめんなさいね。若く見えたから。
      B: そんなに若くないですよ。
            大学で働いてるんで,学生と過ごす時間が多いから…
      A: あぁ,それで若く見えるのねぇ。
            Nova にはよくいらっしゃるの?
      B: そうですね,よく来ます。
      A: お近くにお住まいなのよね。私はトラムを乗り継いで見に来たの。
            実は,この映画の出来事があった時,
            ちょうどイングランドからオーストラリアに移住する頃だったのよ。
      B: へぇ~,そうですか。じゃ,覚えてらっしゃる?
      A: いや,私は 4 歳だったからあまり…
            でも,母からいろいろと聞かされたのよ…

というわけで,歴史の生き証人みたいな人から,上映前にちょっとした歴史のレクチャー(?)を受けたおかげで物語にもスッと入っていけたし,観た後も気持ちの良い感動を味わうことができた。

映画の中のエリザベス2世はローティーンだったと思うから,多分,このおばあさんは 70 代の後半くらいだろう。このくらいの年齢の人はあまり早口でしゃべらないし,彼女の折り目正しい Queen's English が心地よく聞き取りやすかったなぁ。

映画自体も良かったし,なんか得した気分。

2010年12月19日日曜日

ビールに豆

今日は一日天気が悪かった(雹を伴う嵐!!)んで,家に引きこもり,いろいろな雑用を済ませていた。

そんな一日のシメは,昨日酒屋で買った Little Creatures のシングルバッチ Brown Ale をテイスティング。そして,酒の肴にはミックスナッツでもあればいいんだが,ちょうどテレビで放映していた

The Best of Mr. Bean

いやぁ,割と好きなのよね,Mr. ビーン。今日も,駐車場とか飛び込み台とか女王迎えるやつとか,見たことあるネタが多かったんだが,七面鳥かぶるやつなんて秀逸で,何度見ても笑える。

そういえば,昔,香港に旅行した時,たまたま映画館の前を通ったら,劇場版「Mr. ビーン」をやっていて,同じ映画館でジャン・クロード・ヴァン・ダムの「サドンデス」も上映していた。当然,看板のタイトルも漢字で書かれてあるわけで,悲しいかな

豆先生 突然死亡

と表示されてた。看板だけであんな笑えるのも珍しい。そりゃ,豆先生も浮かばれないっスよ。

おっと,ビールの話をするのを忘れるとこだった(こっちがメインのつもりだったのに…)。

色は赤みがかったアンバー。通常,ブラウン・エールと言うとモルトの特徴が支配的でキャラメルのような深い甘みのあるスタイルを思い浮かべるが,このビールは全然違う。そういう意味では,トラディショナルなイングリッシュ・ブラウン・エールのスタイルではない。ほのかにモルトの香りもあるものの,ホップ由来のフルーティなシトラス系のアロマが支配的。カスケードとギャラクシーに,タスマニア産のハラタウとトパーズも合わせていると書いてある。口に含むと,ほのかにカラメルやトフィーのような甘さもないわけではないが,やはりグレープフルーツを思わせる酸味と苦み(48 IBU)が勝っている。これは正真正銘,ホッピーなエール。ボディはミディアムで,苦味はしっかりと長い余韻を伴う。想像と全く違っていたけれど,よい意味で裏切られた感じかな?

このビールと Mr. ビーンの相性は…よくわからないが,楽しく呑めたから,まぁ,いいか。

2010年12月13日月曜日

解読失敗

毎週月曜日は Lygon St. の Cinema Nova が安い日。

今日,久々の Monday Nova で観た映画は,ナオミ・ワッツとショーン・ペン主演のポリティカル・スリラー "Fair Game" だ。昔,某モデル主演のクソ映画があったが,それとはまったくの別物。こちらは,ブッシュ政権下で起こった『プレイム事件』の映画化。この事件は,中東問題の専門家であったジョセフ・ウィルソンが「イラクに大量破壊兵器は存在しない」と主張したことをホワイトハウスが(ってかブッシュが…)憂慮し,その報復として,彼の妻ヴァレリーが CIA のエージェントであったことがメディアに暴露されたという事件。まぁ,アメリカって国がいかにひどいところかを示す好例と言えよう。

さて,この事件について知らなければ,緊張感のある政治スリラーとして十分楽しめる。ドラマとしての力強さもある。一方,事件を知っていると,大体話の流れは見えてしまうわけだ。では,映画はどこに力点を置くべきかというと,前半の CIA エージェントとしてのヴァレリーの活躍や,ブッシュやチェイニーをはじめとする米政府内の不穏な動き,それにウィルソン夫妻の葛藤など,公に知られざる部分をどうあぶり出していくか,というところがポイントとなる。

で,ドラマとしては,終盤,離婚の危機まで迎えた夫妻が,アメリカ政府へのリベンジを決意するところが,ある意味クライマックスとなるべきだと思うんだが,どうもここがあっさりし過ぎているように感じた。事件自体を再現したいのか,人間ドラマを描きたいのか,ぼやけてしまった感がある。ここを丹念に描くと,物語として厚みが出たのになぁ,と思う。いい作品だと思うので,いかにも惜しい。

さて,本編については,こんなところだが,この映画のエンドロールにハメられた。最初は気付かなかったんだが,ところどころ,文字が黄色くなっている。

もしかして,ステガノグラフィ? 

なんて思ったもんで,黄色い文字だけつなげて読んでみたんだが,意味不明。黄色の次の文字だけ読んでみようかな? と気持ちを切り替えたら,ほとんどテロップは終わってしまった。

んんんん,多分,全然意味はなかったんじゃないかね? (←負け惜しみ)。もう一回見れ,っていうことかな? もう一回見たってわかんないと思うけどな。DVD 買って解読すれってことか?? いや,そう思わせて DVD 買わせようという姑息な魂胆に違いない!! しかし,こうして製作側の術中にまんまとはまっていくわけか。でも,実際,DVD 買ってまで見るほどではないしなぁ……暗号方式の事例研究ということで,研究費で…いやいや,こういうことは言っちゃいかんね。いかん,いかん…

2010年12月11日土曜日

New Classic

今夜,メルボルンの Regent Theatre で,2010 年の AFI (Australian Film Institute) Award 授賞式が行なわれた。これは,アメリカでいうアカデミー賞に相当するもので,映画とテレビ業界におけるオーストラリアで最も権威のあるもの。

今年の AFI アワードはこの作品のためにあると言っても過言ではなかった。その作品とは

Animal Kingdom

原題のまま表記したのは,この作品の日本公開が現時点で未定だから(悲しすぎる)。しかし,この作品,興行成績こそ,今年度の国内第 3 位に甘んじたものの,評判は極めて高かった。ストーリーは,母親を亡くした少年が祖母の家に引き取られるが,そこの家族がメルボルンの裏社会に暗躍する犯罪一家で…という話。実際の事件にインスパイアされたオリジナル作品ということだ。舞台がメルボルンで,撮影もほとんどがメルボルン市内で行なわれている。僕も市内の映画館で観たけれど,その力強い描写に息を呑んだ。

この作品,AFI アワードでは,長編劇映画としてノミネーションを受けられる全 16 部門のうち,15 部門で 18 のノミネーションを受けるという記録的快挙を成し遂げた。ノミネートされなかったのは,視覚効果賞だけ。これは作品の性格上いたしかたないだろう。部門数とノミネーションの数が合わないのは,主演男優賞で 4 人中 2 人,助演男優賞で 4 人中 3 人(!! 刑事役のガイ・ピアースを含む)がこの作品だから。つまり,主演・助演の 4 賞で 7 人の役者が受賞候補になっているということで,日本でもアメリカでも,ちょっとこんなの聞いたことがない。主要人物はほとんどノミネートされている感じ。

で,結果はというと…ノミネートされた 15 部門中,
  • 作品賞
  • 監督賞 (David Michôd)
  • 主演男優賞 (Ben Mendelsohn)
  • 主演女優賞 (Jacki Weaver)
  • 助演男優賞 (Joel Edgerton)
  • オリジナル脚本賞 (David Michôd)
  • AFI メンバーズ・チョイス賞
  • 編集賞 (Luke Doolan)
  • 作曲賞 (Antony Partos, Sam Petty)
を制覇。主要な賞はほとんど持ってった感じで,これは快挙だ。

このうち,今回の受賞者の中でも特筆すべきは,主演女優賞を受賞した Jacki Weaver だろう。彼女は主人公の少年の祖母役で,この犯罪ファミリーの「ゴッドマザー」的存在。彼女の存在感がなければ,この作品の成功もなかったんじゃないかと思わせるほどの名演であったと思う。

実は,この作品はアメリカを含む海外数カ国でも公開されていて,先日発表されたアメリカのナショナル・ボード・オブ・レヴュー賞で,Jacki Weaver は助演女優賞を受賞している。アメリカでもかなり評価が高いようで,アカデミー賞の助演女優賞の有力候補との噂もある。

僕もこの映画は本当によくできた作品だと思うし,彼女の演技の迫力,存在感にも圧倒された上,何と言ってもメルボルンが舞台ということもあって,ぜひ本場のアカデミー賞でもひと暴れして欲しいなぁ,と思っている。

しかし…この映画,日本公開はないんですかね? オスカーを獲ったら遅れて公開ってこともあるかな? それとも DVD スルーだろうか… DVD にもならないなんてことはないよね??

オーストラリアでは DVD と BD が既に販売されていて,特にブルーレイはリージョンフリーみたいだから,日本で紹介されないという最悪の事態を考えて,買って帰ろうかなぁ,なんてちょっと思い始めているけど…どうなんだろう??

2010年12月7日火曜日

純粋であること

今日は青臭いこと書くけど…ごめんなさいね(いきなり謝ってどうする…)。

さて,先日,映画「告白」を観た後で,あの映画のウラには

コミュニケーション,理解,信頼,想像力などの欠如,喪失

が流れている,と書いた。あの作品が,コミュニケーションや信頼,理解の喪失の極北に位置しているとすれば,今日,日本映画祭のクロージング上映で観た成島出監督,堤真一主演の映画「孤高のメス」は,それと真逆の方向に最大振幅振れていると言っていいだろう。

ある地方都市の病院に赴任してきた外科医が主人公。保身的な学閥の医師たちに疎まれるが,院長や看護師,若い医師らの信頼を得ながら,困難な手術を次々と極めて手際よく成功させていく。そんな中,病院の支持者であった市長が病に倒れ,当時違法であった脳死肝移植を行なうことを決意する,というのがストーリーの柱。

実際,マンガにもなっているらしいが,マンガ的な出来すぎたストーリーである。こういう話はウソ臭くなりがちだが,この作品には,そんな嫌味なウソ臭さが感じられない。それには 3 つの理由が挙げられる。一つは手術の描写がリアルであること。ただ,近年の医療ドラマや映画は極めて精巧に作られているので,これは特筆するに当たらない。

2 点目は,堤真一演じる主人公の当麻鉄彦が,腕のいい外科医でありながら,孤高の天才というよりも,人間としての温かみのあるキャラクターとして描かれていることだ。僕にとっての堤真一と言えば,「弾丸ランナー」に始まる一連の SABU 作品をどうしても思い浮かべてしまう。どちらかと言えばクソまじめで面白くもなんともない人間なんだけど,トラブルに巻き込まれて,それが異様におかしいという…「MONDAY」なんて,思い出しただけで今でも十分笑える。だから,どんなにまじめな役を演じていても,何かやるんじゃないかと思って,どうしても観ながらにやけてしまうのだ。そんなこともあるものだから,この映画で主人公が時折見せるお茶目な一面に,「来た来た」と思って,ニヤニヤしてしまう。その意味で,このキャスティングは絶妙だし,この辺りの描写が,この作品のトーンを形成する上で一種の緩衝材になっていると言える。

そして,3 番目の理由。それは,この作品が,人と人とのつながり,信頼,理解,コミュニケーションを明に描いているということだ。主人公は純粋なまでに自らの信念を貫き通す。現実では,そういった場合,何らかの破綻をきたすことが多いわけで,フィクションとは言え,この手の話の流れはウソ臭くなっても仕方がない。ところが,この映画は形式的には医療の問題を扱っていながら,作品を貫くテーマが人間どうしのつながりであるという点,このことがこの作品を支える大きな要因になっていると,僕は思う。

医療の現場に限らず,僕が身を置く教育の世界においても,我々がピュアであり続けることは難しい。現実の社会で起こる諸問題には,多くの場合,最適解が存在せず,我々にはその中から最適解に最も近い準最適解を選択することが求められる。ところが,この準最適解というやつは曲者で,どちらの方向から見るかによって,より数学的に言えば,どの座標軸に射影するかによって「最適」であることの意味合いが変わってくる。このような状況で,この映画の主人公のように純粋であり続け,ぶれることなく自らの信念を貫き通すことは非常に困難だ。僕自身,運よく比較的良い解を見つけられたこともあれば,苦い思いをしたことも少なくない。そんな,ある種「究極の選択」を迫られた場面で,何をよりどころにするかというと,やはり人間どうしのつながり,信頼や理解,意志疎通に他ならないと思う。いかにこの物語が一見,作りものめいた体裁をしていようとも,作品を貫くこのテーマが僕にはリアルに訴えかけてきたし,主人公・当麻の姿に快哉を叫ばせてくれた。

映像作品として難がないわけじゃない。亡くなった看護師の日記を若い医師でもある息子が読みながら過去の出来事を辿るという形式上,モノローグが多いのは仕方ないとは思うが,もう少し処理のしようがなかったか?

でも,そんなことは大きな問題ではなかった。少なくとも僕にとっては,これまでに経験したことを思い出させてくれ,これからのことを考えさせてくる契機を与えてくれたし,良い方向に気持ちをリセットさせてくれたという意味で,感謝すべき素晴らしい映像体験だった。

現実社会の中でバランス感覚を保つことは難しいよ。でも,その中ですべてと言わずとも,どれだけ自分のピュアな思いを保つことができるか。人と接する職業柄,この問題は僕らが常にに抱え続けなくちゃいけないトレードオフ,永遠に解決することのできない未解決問題であると思う。

ま,そこが面白いと言えば,面白いんだけどね。


追記:(最近,これが多い)
ところで…反当麻の医者の一人を演じていた斉藤歩さんの肝臓は,今,元気なんだろうか?

2010年12月6日月曜日

湿り気と匂い

久々に日本映画らしい映画を観た。

昨日見た「劔岳」や「鳥刺し」も日本映画らしいと言えば日本映画らしいのだが,ここでの日本映画はもっと狭義の「日本映画」。

ある時期(たぶん,70 年代から 80 年代初めにかけて)の日本映画には,独特の匂いがあったように思う。湿ったアスファルトや土の匂いだったり,木造アパートのカビ臭い匂いだったり,煙草や安物の化粧品の匂いだったり,生き物としての人間が放つ有機的な匂いだったり…

今日は日本映画祭で根岸吉太郎監督の「ヴィヨンの妻」を観た。太宰治の同名小説を柱に,他の太宰作品のエッセンスを加えて 1 本の映画に仕上げている。主演は松たか子と浅野忠信。厭世的で,死にたいのに死に切れないダメ人間の夫と,楽天的で明るく芯の強い妻。こういうラブストーリーもあるのか,と思わせる。ラストで象徴されるように,二人はあまり互いのことを見ない。対面せざるを得ない留置所のシーン,ここで妻は唯一,悲しみの感情を高ぶらせる。ここを境に,ラストに向かって物語を進める根岸演出も確かで隙がない。よくできた映画だ。

でも,僕が一番唸ったのは,スクリーンに映った演技や映像ではなく,物理的にはスクリーンから伝わるはずのない「匂い」だ。「かおり」じゃなく「におい」。主人公の大谷は「死にたい」と連発し,実際心中未遂もするのだが,スクリーンからは死の匂いではなく,むしろ生の匂いがプンプンしてくる。これはかつての日本映画が持っていた独特な匂いだと思う。冒頭に述べたような湿っぽい雨の匂い,安酒場の煮込みの匂い,そして人間自身が放つ「生」の匂い,これはそこはかと漂うエロスの匂いでもある(見せないエロチシズムも,ある意味,日本映画の宝だと思う)。そう,この映画から感じる匂いは,「生の匂い」と言っても,ヴィヴィッドで明るい朗らかさを感じさせるような匂いではない。それは死と背中合わせになった生の匂いだ。何というか,相転移における臨界点に位置するような…そうか,その意味では「生の匂い」であり,かつ「死の匂い」であるわけだ。「死を見据えた生の匂い」とでもいうべきか。その意味で,この作品からこの匂いを感じるのは必然なのかもしれない。

物語では時折「死の予感」を漂わせながら,ラストはすがすがしいような「生」を感じさせる。表層的な死生観と対照的な「生の匂い」。その振幅の大きさ,ダイナミズムがこの映画の魅力と言えるんじゃないだろうか。

人は誰しもが生きていながら,それは同時に死への道行きでもあるわけだ。「死ぬことは生きることだ」とは誰の言葉だったか?そういえば,太宰好きで知られる宮本浩次も「敗北と死に至る道が生活ならば~」と唄っていたっけ。

そうそう,帝都東京の中心から少し離れた生活圏へと走る中央線が,またこの独特な匂いを増幅しているようにも思えた。

うーん,こっちに住んでて日本料理を食べたくなることはあまりなかったんだけど…踏切沿いの酒場の煮込みが少し恋しくなったなぁ…あと 4 ヶ月は辛抱しないとなぁ…


追記: …と,一通り書き上げて,自分で読み直してみたら,RC サクセションの「いい事ばかりはありゃしない」が聴きたくなった。というわけで,ちょい聴いて,そいで今日は寝ます。

2010年12月5日日曜日

本格派

今日も日本映画祭で 2 本観てきた。今日観たのは,去年,見逃してぜひスクリーンで見たいと思っていた木村大作監督「劔岳 点の記」と平山秀幸監督の時代劇「必死剣 鳥刺し」の 2 本。いやぁ,どちらも映画の醍醐味を思う存分味わえる本格派だった。どちらにも満足。

まず,「劔岳」の方だが,こちらは日本では昨年公開されて,いろんな映画賞を持ってったことでも記憶に新しい人も多いはず。陸軍測量部が三角点を設置するために,前人未踏の剱岳登頂を目指す物語。

木村大作御大は「本物」にこだわり,役者,スタッフと共に本当に登山を敢行し,特撮などではないリアルな立山連峰の映像を大スクリーンに映し出した。(この撮影の過酷さは,キネマ旬報で連載していた香川照之の「日本魅録」に詳しい。)本物の自然の迫力には逆らえない。スクリーンに広がる険しい山々や雲海,色づいた木々の美しさの前にはひれ伏すしかない。雪渓を進む登山隊を俯瞰で捉えたショットなんて,自然の中で人間がいかにちっぽけな存在かを思い知らせてくれる。その骨太な映像に負けじとストーリーも骨太。旧陸軍のメンツ主義はバカみたいだが,自然に立ち向かっていく男たちのドラマとして秀逸。

クレジット上の主役は浅野忠信なんだろうが,これ,実際は香川照之の映画だよ。連載エッセイでは愚痴,ぼやきの連続だったが,なんだかんだ言って出来たものを見ると,一番報われてると思いますよ,香川さん。

2 本目の「鳥刺し」は,新鮮なとこをわさび醤油でいただくと美味いやつじゃない。藤沢周平原作の海坂藩もの時代劇。藤沢の海坂藩ものというと,近年では一連の山田洋次監督作が思い浮かぶが,作風は全く違う。山田作品は,武家社会を背景にヒューマニズムあふれる人間ドラマという印象が強いが,本作は,かなり硬派な時代劇。主人公・兼見三左エ門は,藩主の妾・連子を城中で衆目の中,刺殺する。決死の覚悟の上の行為だったが,なぜか彼には寛大な処分がくだされ,斬首を免れる。なぜ,彼は連子を殺したのか?なぜ,死を免れたのか?タイトルの「鳥刺し」とは何か?観客にとっては,その辺りを探るミステリーとしての楽しみもある。

ところが,そう見えて,この作品は,実に古典的で,かつ丁寧に作られた本格派時代劇。武士や武家の女性のしぐさ,身のこなし,衣擦れの音にもこだわりが見られる。ストーリーは静謐なタッチで進みながら,さまざまな伏線を経てクライマックスへとなだれ込んでいく。この辺りも,奇をてらわないオーソドックスなスタイルだけれども,ぐいぐい引き込まれていく。そして,何と言ってもラスト 15 分のチャンバラシーン。リアルな立ち回り,刀の音,刀の向き(!),過剰なまでに飛び散る血しぶき。刀を握る手の震え,汗と血の匂い,痛さ,恐怖,そんなものが見ているこちらにまで伝わってくるような迫力。さすがに観客からも声が漏れてた。時代劇を観たことがない人でも,このシーンを見たら,虜になるかもしれない。

主演の豊川悦司,それを支える池脇千鶴もさることながら,久々に見た吉川晃司がなかなか良かった。一方,映画にいい味を加えた小日向文世が途中から忘れられキャラになってしまったのはご愛嬌?

外国人には理解できないかもしれない部分もなくはないけれど,これだけ本格的な日本映画が作られたこと,それをスクリーンで観られたことを,素直に喜び,感謝したい。そして,この 2 作が共に東映の作品であったことも最後にリマークしておきたい。経営的には決して安泰とは言えないはずだが,往年の東映作品の力強さが蘇ったように思え,嬉しい。こういう骨太な作品を今後も作り続けて欲しいと思う。

2010年12月4日土曜日

平均 0,分散大

日本映画祭で 2 本の映画を観た。

まず,昼の回は「フラワーズ」。正直言って,

何じゃ,これ?

って感じ。6 人の女優が 3 世代にわたる一家の女性たちを演じ,彼女たちが命をつないでいく姿を描いた作品。設定としては大河ドラマっぽいが,大河としてのうねりは皆無。では,6 人の女優の魅力を十分に映し出しているかというとこれも不十分。ストーリーなんてどうでもいいから,6 人を魅力的に映すことに専念した方がナンボかマシだったかもしれない。セリフも演技も平板。さらには,少子化の時代とは言え,産めよ育てよ的な話の流れが古臭い上に,押し付けがましい。ハッキリ言って,主演の 6 人がかわいそうである。蒼井優なんて,「おとうと」の時とはまるで別人のように輝きを失っていた。大河ドラマならミニシリーズ化してもいいくらいの題材だと思うが,1 時間 50 分でも長く感じた。こんなの 30 分で十分。

一方,夜は,気を取り直して,今回の映画祭で恐らく一番前評判の高い,中島哲也監督「告白」。

いやぁ,これは期待を裏切らない傑作だったね。娘を失くした女性教師が教室で驚くべき告白を始める。松たか子演じるこの教師の告白は冒頭 30 分近く続いて,一旦,終わる。その後,生徒や親の告白を伏線として張り巡らしながら,物語は結末へ向かって大きくうねり出す。そして,ラストも,この教師の驚くべき告白で,まさに驚くべき終焉を迎える。

原作は読んでない。原作の力もあるのかもしれないが,そこは中島監督,相当捻りを利かせているに違いない。そもそも,モノローグで紡がれる物語なんて,映画的にはあまり魅力的ではないはずなんだが,映像の力でぐいぐい引き込まれていった。各エピソード(各告白と言うべきか)のつなぎも絶妙。計算されつくした脚本と演出,それに応えた演技陣。特に松たか子は怖い。それに音楽もいい。これまでもさまざまな手で我々を驚かせてくれた中島監督だが,総合芸術としての映画の醍醐味を,しかもこんな恐ろしい物語で見せてくれた。拍手喝采。

しかし,この物語には,コミュニケーション,理解,信頼,想像力などの欠如,喪失が通奏低音として流れている。こりゃ,僕のような職業の人間には,リアルなホラーだよ。あー,怖い。

ここまで衝撃的で練り上げられた日本映画を久々に見たような気がするが…しかし,この後味…アカデミー外国語映画賞は…どうだろうね?

リメイクの噂もあるようだが…アメリカ人には…無理じゃないかねぇ?

2010年12月2日木曜日

原点回帰?

今日からメルボルンで始まった第 14 回日本映画祭。オープニング作品の山田洋次監督「おとうと」を観てきた。

この作品は市川崑監督作品「おとうと」(1960 年) に捧げられているが,リメイクではない。物語の根幹の部分は似てはいて,不肖の弟を持つ姉の話。市川版では,結婚するのは岸恵子演じる姉自身だが,今回の山田版では姉の娘(演じるは蒼井優)に置き換えられていたりする。設定も大幅に違うため,完全な山田洋次オリジナル版と言える。

山田洋次は僕にとって特別好きな映画監督ではないけれども,なんだかんだ言って結構見ている(正直に告白するが,寅さんシリーズはあんまり見てない…)。ただ,いつも思うことを今回も思ってしまった気がする。いい映画だ。いい作品だし,十分に人に薦められる作品だと思う。だけど,個人的には何か物足りない感が残る。何だろう,この「ほんのちょっとの不足感」。

50 年前の市川版「おとうと」ではこんな不足感は味わっていないのだ。設定が大きく違うだけじゃなく,ビジュアル的にも市川版と山田版では大きな隔たりがある。僕が市川崑作品に共通する,いわば「シャープな映像感覚」をこの上なく好んでいることも少なからず影響しているのかもしれないけれど。

山田洋次監督は松竹大船撮影所で長い経験を積んでいるが,今回の作品はモロ松竹大船調。これまでの山田作品でも,もちろん大船の匂いを感じることは少なくないのだが,今回は,カメラワークといい,役者の演技といい,「大船調」というよりも,何というか,「小津感」とでもいうものがスクリーンを支配しているような気がした。設定は現代だし,山田流の毒も若干ながら含まれているような気がするけれど,ちょっとノスタルジックに流れたきらいがないだろうか?途中から蒼井優が原節子に見えてきたもん。僕だって小津の作品は好きでほとんど見ているけれども,今,山田洋次がそこに回帰することの意味は何なのか?特に今回は,その辺が,僕の感じた「不足感」につながっているような気がしないでもない。

吉永小百合,鶴瓶におなじみの笹野高史など役者も揃っているし,見応えのある作品だとは思う。いい作品だけど…って感じだね。

あ,あと,加瀬亮君には,こういう路線に留まらず,もっと冒険して欲しいという気もするね。いい役者なんだから。

映画の後は一杯。今日は,会場の ACMI と同じ Federation Square にある Beer Deluxe で Brew Dog というスコットランドのブルワリーの Hardcore IPA というのを試した。


スタイルとしては,ハーブのような華やかなホップの香りと苦みに特徴のあるアメリカン IPA だとは思うが,アルコール度数も高く,香りもフレーバーも,どちらかというとベルジャン・トリペルを想起させる。日本人的には,赤ミソや醤油を思わせるアロマも感じる。苦味は強烈で,カラメルのような甘みもある。確かに言われてみればハードコアってのもうなづける。これはビールというよりもブランデーみたいな感覚で,30 分くらいかけてじっくりと味わうのに適したビール。実際,僕も気がついたらチビチビと 30 分以上経ってました。

ビールの方は映画と違って挑戦的だったね。…最近こんな感想が多いな。