今日からメルボルンで始まった第 14 回日本映画祭。オープニング作品の山田洋次監督「おとうと」を観てきた。
この作品は市川崑監督作品「おとうと」(1960 年) に捧げられているが,リメイクではない。物語の根幹の部分は似てはいて,不肖の弟を持つ姉の話。市川版では,結婚するのは岸恵子演じる姉自身だが,今回の山田版では姉の娘(演じるは蒼井優)に置き換えられていたりする。設定も大幅に違うため,完全な山田洋次オリジナル版と言える。
山田洋次は僕にとって特別好きな映画監督ではないけれども,なんだかんだ言って結構見ている(正直に告白するが,寅さんシリーズはあんまり見てない…)。ただ,いつも思うことを今回も思ってしまった気がする。いい映画だ。いい作品だし,十分に人に薦められる作品だと思う。だけど,個人的には何か物足りない感が残る。何だろう,この「ほんのちょっとの不足感」。
50 年前の市川版「おとうと」ではこんな不足感は味わっていないのだ。設定が大きく違うだけじゃなく,ビジュアル的にも市川版と山田版では大きな隔たりがある。僕が市川崑作品に共通する,いわば「シャープな映像感覚」をこの上なく好んでいることも少なからず影響しているのかもしれないけれど。
山田洋次監督は松竹大船撮影所で長い経験を積んでいるが,今回の作品はモロ松竹大船調。これまでの山田作品でも,もちろん大船の匂いを感じることは少なくないのだが,今回は,カメラワークといい,役者の演技といい,「大船調」というよりも,何というか,「小津感」とでもいうものがスクリーンを支配しているような気がした。設定は現代だし,山田流の毒も若干ながら含まれているような気がするけれど,ちょっとノスタルジックに流れたきらいがないだろうか?途中から蒼井優が原節子に見えてきたもん。僕だって小津の作品は好きでほとんど見ているけれども,今,山田洋次がそこに回帰することの意味は何なのか?特に今回は,その辺が,僕の感じた「不足感」につながっているような気がしないでもない。
吉永小百合,鶴瓶におなじみの笹野高史など役者も揃っているし,見応えのある作品だとは思う。いい作品だけど…って感じだね。
あ,あと,加瀬亮君には,こういう路線に留まらず,もっと冒険して欲しいという気もするね。いい役者なんだから。
映画の後は一杯。今日は,会場の ACMI と同じ Federation Square にある Beer Deluxe で Brew Dog というスコットランドのブルワリーの Hardcore IPA というのを試した。
スタイルとしては,ハーブのような華やかなホップの香りと苦みに特徴のあるアメリカン IPA だとは思うが,アルコール度数も高く,香りもフレーバーも,どちらかというとベルジャン・トリペルを想起させる。日本人的には,赤ミソや醤油を思わせるアロマも感じる。苦味は強烈で,カラメルのような甘みもある。確かに言われてみればハードコアってのもうなづける。これはビールというよりもブランデーみたいな感覚で,30 分くらいかけてじっくりと味わうのに適したビール。実際,僕も気がついたらチビチビと 30 分以上経ってました。
ビールの方は映画と違って挑戦的だったね。…最近こんな感想が多いな。
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