オーストラリアには,主に州が所有する TAFE (Technical and Further Education) という学校が 100 以上ある。中等教育以降を対象にした職業訓練のための専門学校で,設立理念や形式は日本の高専に似ている。事実,ウチの学校もヴィクトリア州の TAFE と国際交流をやってたりする。
記事の内容は,TAFE が建築,看護,IT,経理その他の分野で,大学と同等レベルの学士 (bachelor) の学位を与える計画をしていることに関するもの。これに対して大学側に反対意見があるという話。
反対派の根拠は
- 多くの学生が学士コースを履修することで,学士の価値が薄れる。
- 私立大学が多くの留学生を抱えて破綻した例があり,TAFE でも同じ現象が起こることが予想される。
- TAFE は低所得者層からも多くの学生を受け入れているが,学士を取得するために必要な資金は一般の大学よりも高額になる。
- 学士のための教育に力を注ぐことで,本来の職業訓練的な性格が薄れることが懸念される。
記事の中には,TAFE で取得した学位が,大学の学位よりも低く見られがちだとかいう記述もあって,この辺は,さもありなんとは思うが,にわかには同意しかねる。一般に,日本の高専の専攻科で取得した学位が大学の学部教育で取得したものと比べて低く見られているかどうかは良く知らないが,教えているこちらからすると,そこらの学部教育よりははるかに高い内容を学生には求めているわけで,意識としては少なくとも大学の修士レベルと同等であることを目指している。ただ日本では,高専は学位を与える機関としては認められていなくて,学位授与機構というところに申請をしないと学生は学位が得られなかったりするわけで,やっぱりある種,特異な先入観や偏見に晒されているという気がしないでもない。
まぁ,TAFE の教育レベルと高専のレベルが同じであるとは限らないので,単純な比較はできないわけだけれど,最後は,学校としてのアウトプット(つまり学生,卒業生)のクオリティをどう保つかってことになるのだと思う。大学院の定員増の時の議論と似ているけれども,最後の砦は,最前線に立つ我々教員の良心にほかならない。これは TAFE だろうが高専だろうが,大学だろうが最終的には同じことだ。時代の趨勢によって,クオリティの維持が難しくなることはあるかもしれないけれども,少なくとも我々の姿勢としてはそこで妥協しちゃいけないわけだ,やっぱり。高専の専攻科も定員増が叫ばれているから,もはや隣の庭の話ではない。
というわけで,少なくともボクんとこに来る学生は,それなりに覚悟するように。甘くないよ。
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