2010年7月30日金曜日

MIFF #08

"City of Life and Death" @Forum Theatre

何を隠そう,今回の映画祭で僕が一番見たかった作品がこれだ。

南京大虐殺を描いた陸川監督による中国映画『南京! 南京!』である。

見たかった理由は 3 つある。1 つは,「ココシリ」を撮った監督の新作を一映画ファンとして純粋に見たいと思ったこと。もう一つは言うまでもない,議論の余地はあれど,一日本人として見ておくべき作品だと考えたから。そして,最大の理由は,ここで見ておかなければ,二度と見るチャンスに恵まれないかもしれないという危機感からだ。事実,日本公開されるというニュースを昨年耳にしたものの,それ以降,日本国内で具体的な動きがある気配はなさそうだ。

この映画は劇映画である。このことは,あくまでもこの作品が作家による創作物であることを意味している。しかし,その一方で陸川監督らはそれ相応の調査を行なったであろうから,歴史的事実に基づいている,ないしは事実にインスパイアされて描かれている部分も少なくないと推測できる。

しかし,2 時間を超えるフィルムを見終わった今,ここで描かれていることが事実かどうか,そんなことはどうでもよいという気がしている。なぜなら,この映画の存在自体が事件だと思うからだ。

誤解しないでほしい。この映画が日中両国において議論の的になることが必至であるから事件だと言っているわけではない。そうではなく,この映画が類稀な力強さに溢れていることがある種の事件性を帯びているように感じられるのだ。

これまで戦争映画は腐るほど見てきた。しかし,戦争の悲惨さと狂気をこれほどまでに生々しく描き出し,人間の尊厳をヒリヒリと痛いほどに問うた作品を,少なくとも僕は他に知らない。それゆえの事件だと思う。地獄絵図とはこのことかという驚くべきショットにも溢れているし,何より驚いたのは中国人である陸川監督が,極めて冷静に日中双方の視点からこの物語を紡ぎだしているところだ。日本側の視点から描かれたシーンが多く,それに関する監督への批判も多いようだが,僕はそうは思わない。むしろ,このくらいのさじ加減でなければ,戦争の虚しさをこれほどまでに際立たせることはできなかったのではないだろうか?

日本人キャストやスタッフも多く参加しているが,その割に我々から見るとおかしなシーンや不自然な部分も少なくない。しかし,この力強さの前では,そんな些細なことを指摘するのは無粋というものだろう。

今回,この作品に出会えて本当にラッキーだったし,日本の多くの映画ファンがこの作品を観ることができないとすれば,それこそ悲劇だ。同じアジアの隣国が生み出した歴史に残るマスターピースを観られないなんて,我が国における芸術文化の荒廃にもつながりかねない。

それゆえ,本作の日本国内での公開を僕は強く望むし,多くの人に観てほしいと思う。

議論するのは,映画を観てからでも十分だ。違うだろうか?

City of Life and Death (原題:南京! 南京!)
(2009 年 / 中国 / 135 分 / 白黒)
監督:陸川 (Lu Chuan)
出演:劉燁 / 高圓圓 / 范偉 / 中泉英雄
第 3 回アジア太平洋映画賞最優秀監督賞

★★★★★★★★☆☆

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