"Cell 211" @Forum Theatre
説明を読んだり予告編を見た限りでは,痛い,重い,救われない,の 3 拍子そろったバイオレンスものだろう,くらいの印象で劇場に行った。でも,スペインのアカデミー賞に相当するゴヤ賞で作品賞を含む 8 部門を独占したってんで,ちょっと気になった。白状すると,映画祭のパスを買って,最後まで見るかどうか迷ったのがこの作品だったりする。
いや,しかし,選択は正しかった。こんな映画が劇場未公開で DVD スルーなんて,日本の映画界はどうかしてるぞ。まぁ,痛い,重い,救われない,は当たってたけど。
新任の看守が翌日からの勤務に先だって刑務所の見学に来ていたところ,刑務所内で暴動が起こる。ふとしたことから,彼は塀の向こうに取り残されてしまい,身を守るために看守であることを隠して囚人のふりをする…という展開。
勝手に名付けて申し訳ないが,僕はこの映画を「セクト映画」の一つに数えることにする。このカテゴリには,たとえば,若松孝二の『実録・連合赤軍あさま山荘への道程』や高橋伴明の『光の雨』といった連合赤軍もの,オウム真理教を追った森達也の『A』などが挙げられる。作風が全然違うじゃん,と言われかねないので,もう一つ挙げておくと,深作欣二の『いつかギラギラする日』なんかもここに加えていい。全部日本映画で申し訳ないけど。
何を言いたいかというと,密室の中で登場人物がそれぞれの思惑をぶつけあった結果,思いも寄らぬ結末へと収斂していく作品を僕はこう呼んでみたいと思うわけ。物理的に密室であるかどうかは問題ではないし,登場人物の多寡も関係ない。誤解を招かないようにもう一つ加えるならば,イデオロギーの有無も特に関係ない。それぞれの人間が,自らの行動原理に基づいて自律的に動いた結果,誰も予想できない展開を生むところに共通項がある。人間が考える動物であることに起因する負の化学反応と言ってもいいかもしれない。この作品の通奏低音も上で挙げた他の作品のそれと同じものだと僕には感じられた。
単なるバイオレンスなら,こんなに評価が高いわけない。単純な娯楽作には括れない傑作。もちろん,サスペンス,バイオレンスファンも十分満足できると思う。事実,僕は座席の中で少なくとも 3 回飛んだ。3 回飛べば,たくさんだ。
Cell 211 (邦題 : プリズン211 / 第 211 号監房)
(2009 年 / スペイン=フランス / 110 分)
監督:Daniel Monzón
出演:Luis Tosar / Marta Etura / Alberto Ammann
第 24 回ゴヤ賞最優秀作品賞 / 最優秀監督賞 他
★★★★★★★★★☆
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