2010年7月29日木曜日

MIFF #07

"Pianomania" @Forum Theatre

プロの仕事を見た。

この映画は,ピアノの調律師に関するドキュメンタリー。ピアニストたちは,イメージにある音を追及して,次から次へと無理難題を投げかける。調律師はそれに応え,時にはトリッキーな仕掛けをしたり,ミリ以下の調整を行なったりする。プロとプロが良い音を求めてしのぎを削る現場を実直な撮影で追った作品だ。映像は極めてオーソドックスで何ら奇をてらったところはないが,題材だけでグイグイ魅せる。

ピアニスト Pierre-Laurent Aimard が J.S. バッハの「フーガの技法」をレコーディングする 1 年前から録音終了までを柱にして,一人の調律師 Stefan Knüpfer がさまざまなアーティスト達とコラボレーションしていく様子が描かれていく。

可笑しいのは,ときどきボヤくところだ。そりゃそうだ。ピアニストたちの要求は時にムチャクチャだったりする。1 年前からレコーディングの準備をしてきて,前日になって別のピアノを試そうと言われたり,微調整に次ぐ微調整をして臨んだ録音の結果,やっぱり前のチューニングに戻そうということになったり。しかし,ボヤきながらも,ミッションを次々と達成していく。アーティストとの駆け引きはある種のサスペンスにも満ちていて,その緊張感はこちらにも伝わってくるが,時に彼のボヤきがこちらの緊張をほぐしてくれる。

妥協を許さないプロの音楽家と,それに応えるプロの技術者。たった一つしかない完璧な音を求める調整作業は,彼の言葉を借りると一種の scientific research だという。そうなんだよ。当たり前のことなんだが,我々もプロである以上,この水準に到達し,かつ維持しなくちゃいけないんだよ。研究者としての自分は甘っちょろい妥協に溺れていないか? エンドロールを眺めながら,彼らの姿を反芻して,胸に何かがグサリと刺さるような感じがした。

Pianomania
(2009 年 / オーストリア=ドイツ / 93 分 / ドキュメンタリー)
監督:Lilian Franck / Robert Cibis
出演:Stefan Knüpfer / Pierre-Laurent Aimard
第 62 回ロカルノ国際映画祭批評家週間賞

★★★★★★★☆☆☆

0 件のコメント:

コメントを投稿