2010年7月28日水曜日

MIFF #06

"The Trotsky" @Forum Theatre

自らをトロツキーの生まれ変わりと信じている高校生レオン・ブロンシュタインが主人公。自分の名前がトロツキーの本名と同じであることもあって,彼と同じ行動をとることに執着している。一言で言えば,イカレポンチだ。青臭いイカレポンチ。ただ,おかしいのはそんな彼が工場主であるブルジョアの息子であること。そんな父親の経営する工場でハンストを決起して逮捕され,父親の怒りを買い,公立高校へ転校させられる。映画では,その顛末が描かれる。

テイストとしては,カラッと明るくもほろ苦い青春ものという感じで,アホの巣窟みたいな公立高校に転入した彼が,トロツキーと同じように年上のアレクサンドラという女性と出会ったり,学生組合を起こそうと奮闘したりする姿を描き出していく。ちょっとこんな映画に出会ったことはないが,左翼版フットルースといった感じだろうか? 伝わるかな? それで。いずれにせよ,劇場が爆笑に包まれ,多くの観客が極上のエンターテインメントとしてこの映画を楽しんでいたことは事実。

ただ,この映画が他の娯楽作品と一線を画しているのは,「革命」を重心に置いていることだろう。主人公の少年は学生組合を立ち上げることで,退屈と無関心に包まれた学校に革命を起こそうとする。初めは誰も気にも留めない,というか,彼の主張を誰も理解できないわけだが,そのうちに彼のシンパが生まれ始め,しまいには自発的にアジテーターへと変貌していく者が現れる。このプロセスがオモロ恐ろしい。彼にそそのかされたわけではなく,自らの言葉で他の学生を扇動し始める学生が出始める辺りを描きこんでいるところがこの映画の恐ろしいところと言える。過去の歴史をなぞりつつ,来るのかどうかわからない未来を予見するようなこのシーンは,おかしいと同時に少し背筋に冷たいものが走る。一見,娯楽作品に見せかけているが,このカントク,ただものではないかもしれない。映画の中には左翼系映画ファン(そんな呼称があるかどうかは別として)をニヤリとさせる仕掛けもあり,楽しませてくれる。

ただ,思想的なことはさしおいても,一人のイカレポンチの言動,行動がトリガーになって,無気力と退屈に包まれていた学校,これを社会の縮図と言ってもいいのだが,それを変えていく,という物語という風にとらえれば,我々の住む現代社会にとっては,極めて普遍的なテーマとも言える。現代の都市生活者に対するアンチテーゼと捉えることもできよう。

いずれにせよ,一見,さわやかな青春エンターテインメントと見せておきながら,社会的・思想的問題提起をしているように見える辺りが,一筋縄ではいかないものを感じさせる佳作だとは思う。たださぁ,やっぱり,クライマックスは青臭すぎるだろぉ。20 ン年前なら僕も陶酔したかもしれないが,いやぁ,どうかな…やっぱ青いと思うぞ。…って,こっちがトシとっただけか??

あぁ,それから,僕の定義においては,この作品は「セクト映画」には当たらないので,念のためリマークしておく。てか,誰もそんなこと気にしないか。

The Trotsky (邦題:少年トロツキー)
(2009 年 / カナダ / 114 分)
監督:Jacob Tierney
出演:Jay Baruchel / Emily Hampshire / Anne-Marie Cadieux / Geneviève Bujold
第 22 回東京国際映画祭コンペティション部門観客賞

★★★★★★★☆☆☆

0 件のコメント:

コメントを投稿